書類手続きをします
c 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
間もなく公開の「ネオン・デーモン」は鬼才ニコラス・ウィンディング・レフン監督の最新作。独特な色づかいで語られる本作は、いわゆる業界残酷物語にエログロの味付けをした独特の作品になっている。インスパイアされた作品として監督本人が「ワイルド・パーティー」(ロックで成功を目指す女性たちの栄光と没落、そして最後の惨劇を描く)と「アンダルシアの犬」を挙げている。これで作品のカラーはある程度分かると思うが、本作はさらにあらぬ方向へ暴走していくのだ。
今回、舞台となるのはファッションモデル業界だ。主人公がエージェントの面接を受けて合格すると、担当者が先に書類手続きを済ませようと言って、自動車免許証のコピーと共にvoided checkの提出を求める場面がある。voidedとは無効にされたという意味。無効になった小切手など何に使うのだろう。
調べてみると、やはりこれは「無効小切手」と呼ばれるものらしい。手持ちの小切手に自分でVOIDと書いて無効にする。支払いを銀行引き落としにしたり、収入を口座振り込みにしてもらう場合に提出するのだ。小切手には口座名義人名、銀行名、口座番号など必要な情報が載っているため、先方が必要な情報を入手するために提出を求められるのだ。今回の場合なら、エージェントが主人公にギャラを振り込む際の情報として必要なので、無効切手を出せと言っているわけだ。
これはアメリカでは日常的に行われていることらしい。日本にはない習慣だ。日本なら銀行情報を申告するだけで済む。恐らく銀行情報が本当だということを確認するために小切手を求めるのだろう。いわゆるエビデンスというやつだ。 字幕は最初「口座用に無効小切手を」としたのだが、分からないという指摘があって「銀行口座の情報を」と直した。“無効小切手”という言葉は消さざるを得なかったが、やはり習慣に関することは説明がないと難しい。
以前も別の映画で、仲間が家で負傷した時に「洗面所から薬を取ってきてくれ」というセリフがあった。日本なら救急箱を持ってこいなどとなるはず。アメリカでは洗面所の鏡が蓋になっていて、裏に収納スペースがあるのが普通。そこに常備薬を置いておくのだ。この習慣を知らないと、なぜ洗面所へ行かせるのか日本人には分からない。最近は鏡の裏が収納になっている洗面所も日本で増えてきたが、まだそこに常備薬を置く習慣はないはずだ。
話を無効小切手に戻すが、当然ながらVOIDと書く時はペンなどの消せない筆記具を使う。もちろんサインはしない。それから小切手を書き間違えた時、それをシュレッダーにかけてもいいが(金と同様なので安易に丸めて捨ててはいけないのですよ)、VOIDと書くことで無効=使えなくする方法もあるそうだ。
これはいいことを覚えた。今度、小切手を書き損じたら…って、小切手なんか持ってないや。待てよ、トラベラーズチェックなら使う機会はありそうだぞ。試してみようかな。