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翻訳の現場から


2018.04.24

風間先生の翻訳コラム

コラム第41回:航空支援を受け帝国の墓場を行く12人の勇者

航空支援を受け帝国の墓場を行く12人の勇者

© 2018 BY HS FILM, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
5月4日(金・祝)全国ロードショー


 ソー役でお馴染みのクリス・ヘムズワース主演「ホース・ソルジャー」が公開される。アメリカ同時多発テロ後、最初の反撃としてアフガニスタンに派遣された12人のグリーンベレーAチームの物語だ。原題の“12 Strong”というのはここから来ている。戦地が険しい山岳地のため、彼らは馬で戦うことを余儀なくされる。これが邦題「ホース・ソルジャー」の所以だ。
 本作は実話に基づいているので、アルカイダ、タリバン、北部同盟といった集団のことが分かっているとより理解が深まる。どれも同時多発テロと、それに続くアフガニスタン紛争に関わった当事者だ。彼らと米軍との簡単な関係が頭に入っていると、さらに本作が楽しめるはずだ。
 それとは別に、ここを押さえると物語が理解できるポイントを2つばかり挙げてみたい。まずは「航空支援」という言葉だ。正しくは「近接航空支援」という。地上部隊が攻め込む前に、航空機による火力(多くの場合は空爆)であらかじめ敵を叩く作戦のことだ。従来は比較的低い高度(=近接)から攻撃ヘリや小型の多用途戦闘機で行った。目標を外したり味方を誤爆してはまずいからだ。当然、地上軍との密な連携が必要となる。
 しかし、劇中の作戦ではB-52で航空支援を行っている。B-52とは戦略爆撃機、つまり大型爆撃機だ。しかも高度1万メートルから空爆している。近接ではないし、従来のように小型機を使っていない。これには2つの理由がある。近接=低高度で空爆をすると、地上からロケット弾や地対空ミサイル等で狙われる可能性がある。それを避けるために高高度から空爆を行うのだ。高度1万メートルとは旅客機が飛ぶ高度である。
 もう一つの理由は爆弾が変わったことだ。スマート爆弾というのを聞いたことがあると思う。これは誘導爆弾とも言われ、決められた目標へ自ら軌道修正して落下する頭のよい(=スマート)爆弾だ。従来の爆弾が落としっぱなしだったのに対し、格段に命中率が高くなる。スマート爆弾を使うからこそ、戦略爆撃機で高高度からの航空支援が可能となったのだ。劇中の作戦は、大型機による高高度からの航空支援の黎明期の話ということだ。
 しかし、誘導するからには目標の正確な座標を与えてやる必要がある。そのためには、地上にいる兵士が敵に接近しなければならない。以上を踏まえて作戦の説明や実際の空爆シーンを見ると、内容がより理解できると思う。
 2つ目のポイントは「帝国の墓場」。劇中で2人がこの言葉を口にする。これはアフガニスタンのあだ名のことである。以下は読売新聞の用語解説を要約したものだ。古来、東西文明の十字路と呼ばれたアフガニスタンは、ソ連だけでなく幾多の外敵による侵攻をはね返してきた歴史を持つ。大英帝国も19世紀以降、3次にわたる戦争の末に撤退。インドのムガール帝国やモンゴル帝国など、歴史に名を残す大国も苦杯をなめた。アフガニスタンは険しい山岳地形に加え気候も厳しく、大規模な軍事力で攻め込んでも全土を平定するのは至難とされる。
 この説明を読んでシャーロック・ホームズの「緋色の研究」を思い出した。後にホームズの相棒となるワトソンは元軍医で、アフガニスタンに派遣されて負傷し、ロンドンへ戻ってくる。ホームズは初対面のワトソンがいかにも軍医風で、顔や手が日焼けしているのに憔悴しきっている様子から「あなたアフガニスタンへ行ってきましたね?」と喝破する。ホームズのデビュー作である「緋色の研究」冒頭の有名なエピソードですね。あのワトソンも“帝国の墓場”の犠牲者だったというわけか。うーん、感慨深い!

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