缶入り燃料ドリンカー
今月28日にNHKのBSでちょっと毛色の変わったSF作品が放送される。「アンドロメダ…」という作品だ。「ジュラシック・パーク」でお馴染みのマイケル・クライトン原作、「ウエスト・サイド物語」や「サウンド・オブ・ミュージック」のロバート・ワイズがメガホンをとっている。墜落した人工衛星に未知の病原体が付着していて、これと戦う科学者の奮闘を描くという物語だ。スタッフのネームバリューとは反対に、正確な科学考証に基づいたハードSF、非常に地味な作品だ。しかしドキュメンタリータッチなところと相まって、サスペンスあふれる仕上がりになっている。
さて、映画の方は見てのお楽しみということで、今回もセリフに出てきた気になる言葉を取り上げよう。劇中で胃潰瘍に苦しむ老人が、その痛みの対処にアスピリンとスクィーズを飲むと答える。スクィーズとは固形燃料の別称だと説明されると、主人公は燃料酒のことかと納得するのだが、これがピンと来ない。そこで少し調べてみた。
燃料酒という部分はSterno drinkerと言っている。「君はスターノーを飲んでいるのか」ということだ。このスターノー/Sternoというのは商標で、缶入りの固形燃料のことだ。レストランでフォンジューなどの料理の温めに使ったり(旅館の朝食のアジの干物や、飲み会の一人用鍋などを想像してみよう!)、キャンプや非常用の燃料として使われる。缶入りなので別名canned heat/缶入り燃料とも言われる。
商品が製作者の思ってもみなかった使い方をされるのは、ままあること。このスターノーも燃料としてアルコールを含んでいることから、代用酒として飲まれていた。これが一般にも広がったのは禁酒法と大恐慌時代だという。法律や懐の具合で本物が手に入らないので、代用に走ったというわけだ。
その作り方はというと、スターノーの中身をチーズ絞り用の布(寒冷紗/「かんれいしゃ」と言うらしい)か靴下に入れて絞り、出てきたアルコールを含む液体をフルーツ・ジュースとミックスさせて飲むのだそうだ。これをジャングル・ジュースとかソック・ワインとかスクィーズと呼ぶ。ジャングルとは、不景気な時代に働きながら各地を移動する渡り労働者=ホーボーの溜まり場のことを指す俗語だ。ソックとは靴下のこと。最後のスクィーズはお分かりですね――「絞る」という意味です。
そしてこれが体によくないであろうことは想像に難くない。何せ本編によれば主成分はエタノールとメタノール(メチル=目散る)ですからね。よい子は絶対に真似して飲んではいけません。大戦前のブルースマン、トミー・ジョンソンが1928年にCanned Heat Blues/缶入り燃料ブルースという歌でこのことを取り上げている。ちなみにだが、この曲から名前を取ったキャンド・ヒート/Canned Heatというバンドがいた。今ではブルース好きでもないと知らないだろうが、1960年代後半のサイケロック・シーンで人気を博し、あの「ウッドストック」にも登場していた。
日本でも戦後、カストリ焼酎のアルコール度を上げるのにメチルアルコールが添加され、飲んだ人の目がつぶれたなんて話を聞きますね。やっぱり酒は本物を楽しく飲みたいものです。
それから「アンドロメダ…」のファンに朗報。本作はDVDが出ているが、劇中のテロップは普通にしか出ない。しかし放送版はオリジナル仕様で、テロップがテレプリンターのように右から左に流れるように出ます!