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翻訳の現場から


2019.08.09

風間先生の翻訳コラム

コラム第56回:ビートル考

ビートル考

 今年も猛暑だ。暑さで参る我々をよそに元気なのが虫たち。虫の王様といったらカブトムシである。子供の頃は昆虫採集の憧れの的だった。
 カブトムシを英語で何と言うか――たいていの人はbeetleと答えるはずだ。beetleといえばザ・ビートルズである。バンド名の由来は、彼らが大ファンだったバディ・ホリー&ザ・クリケッツにあやかり、昆虫の名前で2つの意味を持つバンド名を考えたと言われている。クリケット/cricketはコオロギと球技のクリケットの2つの意味がある。そこでカブトムシ/beetleにロックのビート/beatをかけてbeatlesと綴ることにしたというのが定説だ。
 だから昔のビートルズ関連の書籍は、表紙にカブトムシのイラストがあるものが多かった。しかしである。10年ほど前だろうか、子供の通院で、小児科の待合室で何気なく昆虫図鑑を眺めていると、世界地図にカブトとクワガタの分布を絵で示したページがある。イギリスはどうかと見てみると、〇〇クワガタとのみ書かれ、カブトムシは住んでいませんとあるではないか。イギリスにカブトムシはいない。となるとbeetleは他の虫ということになる!
 慌てて調べてみると、beetleというのは甲虫の総称だと分かった。その時に調べた資料がないので以下は記憶で書くのだが、時にテントウムシやゴキブリもbeetleと言うことがあるらしい。どうもイギリスでは虫の名前が大雑把なようだ。日本より寒冷なので虫の種類が少ないからだという話を聞いたことがある。また、日本ではホタル狩りや秋の虫の音など虫を楽しむ文化があるが、イギリスでは例えばクワガタを捕まえて見せても、相手はゴキブリを見るような目をすると聞いた。これ以上は文化的考察になるので今は置く。
 今回、改めてビートルズ周辺を調べてみると「ビートルズ・ギア」にデビュー間もない頃のドラム・ヘッドに書かれた最初期のビートルズのムシ型ロゴが載っていた。Bの文字から虫を思わせる触角のようなものが2本出ているデザインだ。もしもカブトムシなら触角より角をデザインするはずではないか。
 また映画「ハード・デイズ・ナイト」のテレビ局の場面では、スタジオの壁に大きな虫のパネルが3枚飾られている。僕は虫に詳しくないがコガネムシ、オサムシ、クワガタ辺りではないか。いずれにしてもカブトムシはいない。しかも3種類バラバラというのが、やはりbeetle=甲虫の総称と思わせる。
 ビートルと言ってもうひとつ思い出すのはドイツの車、フォルクスワーゲン・タイプ1だろう。愛称をビートル/カブトムシと言う。これをモデルに作られた国産の小型車スバル360は、カブトムシとの対比でテントウムシと呼ばれていた。しかし、beetle=甲虫なのだからこのカブトムシという愛称も怪しい。
 こちらも調べてみると、そもそも本国ドイツの愛称はkafer(aはウムラウトという点が付く)=甲虫だ。ところがフランスではテントウムシを意味するcoccinelle、イタリアはコガネムシを指すmaggiolinoとなる。そしてアメリカはもちろんbeetleなのだが、もうひとつbugとも言う。ズバリ、虫の意味だ。昔のディズニー映画で、意思を持ったワーゲンとレーサーの交流を描いたファンタジーがあったが、題名を“The Love Bug”といった。邦題もそのまま「ラブ・バッグ」だ。車の名前がハービーというので、近年は「ハービー/機械じかけのキューピッド」というタイトルでリメイクされている。
 話が逸れたが、要は小型で丸っこいボディーから甲虫――テントウムシやコガネムシを連想するということのようだ。やはり大型の虫であるカブトムシは該当しないということになる。そもそもドイツもイギリス同様、クワガタはいるがカブトムシはいないらしい。
 元来、カブトムシというのは熱帯の虫で、温帯に住むのは日本と北アメリカぐらいのものらしい。日本でも北海道には元々生息していなかったそうだ。英語で特にカブトムシと限定したい時はrhinoceros beetleと言う。直訳すれば“サイの甲虫”だ。ということで皆さん、英語の生物名は総称のことがあるのでご注意を。

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