少女にとって安全な場所はどこなのか?
2021年8月13日(金)公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
あの盲目無双の老人が帰ってくる、と言えばホラーファン、サスペンスファンはもうお分かりだろう。大ヒットした「ドント・ブリーズ」の続編、「ドント・ブリーズ2」が公開される。日米同時公開で、公開日が13日の金曜日というのは絶対に狙ってますね。
さて、予告編や映画紹介のサイトを見た方なら、老人が少女と同居しているという情報はご存じだと思う。そこで少女に関する、ストーリーとはまったく関係ない話を少し書こうと思う。といっても映画の内容に簡単に触れるので一切のネタバレが嫌な方は鑑賞後にどうぞ。
少女は老人の家で生活し、何と勉強までも老人が見ている。少女は普通に学校に行きたいと言うが、老人は「家が安全だ」と言い、少女の願いを断る。老人は少女を家から出したくないのだ。その理由は本筋にも関わるので伏せるが、老人の行動自体は違法でも何でもない。いくら老人が勉強を教えているとはいえ、少女を学校に通わせないのは教育の機会を奪っている――普通はそう思いますよね。日本なら義務教育期間の子供は学校に行かなければいけない。しかしアメリカは事情が違うのだ。
「家が安全だ」というのは字数がないのでこのように訳したが、原文はHomeschool is saferと言っている。普通に訳せば「ホームスクールの方が安全だ」となる。実はアメリカにはホームスクールという制度が認められているのだ。これは文字どおり、子供が学校に行かずに家庭で学習する教育形態。大抵の場合は親が勉強を見る。現在だと保護者監督の下でネットによる授業という選択肢もある。この制度はアメリカ全州で認められており、正規の教育としてみなされ、ホームスクールを経て大学へ進学することも可能だ。あのビリー・アイリッシュもホームスクールの出身だそうだ。
ホームスクールを選ぶ理由は各家庭によって様々だが、かつて多かったのは宗教上の理由だ。中でも興味深いのは次の例だろう。キリスト教原理主義などを信仰する家庭は、聖書を文字どおり受け取るため、進化論を否定している。人は猿から進化したのではなく、あくまで神が創ったと信じているのだ。そこで子供に読み書きは教えたいが、学校に通ったら進化論を教えられてしまうからという理由でホームスクールを選択する家庭がいるらしい。進化論とキリスト教については有名な“モンキー裁判”や、それを映画化した「風の遺産」(劇場未公開)もあるが、話題がずれるので今は置く。
近年になって多くなったのが、各地で起きる銃乱射事件で、もはや学校は安全ではないと判断した親が子供をホームスクールで学ばせるという理由だ。銃を持った警備員が常駐している学校もあるという昨今の現状を鑑みると、ホームスクールという選択は真剣に考慮すべき問題なのだろう。しかしこれはあまりにも悲しい現実だ。
というわけで、老人の「ホームスクールの方が安全だ」という発言自体は故なきものではない。ましてや物語の舞台は治安の悪化で有名なデトロイトだ。彼の発言は極めて真っ当とも言えるのだ。ただし老人は本当に安全だけを理由に少女を学校に行かせないのだろうか?何か別の理由があるのでは?そう思った方は劇場で老人の真意を確かめてください!