時代は変る
縁あって、少し古い映画--1950年代の映画を翻訳した際、通信関係が一斉に切れるという事件が起きる。telephone, radioと並んでcableと来るのだが、当然「電話、無線」そして「電報」となるわけだ。ところが別の調べ物でこの作品の英語サイトの解説を読んでいたら、上記の部分の解説が載っている。読んでみると「この場合のcableとはケーブルテレビのことではなく、電報のこと」とわざわざ注釈があるではないか。
ここで少し説明を加えると、cableとは普通の電報ではない。海底ケーブルを使って海外へ送る電報を指し、正式にはcablegramという。短い文章は昔ながらの電報だが、長い文書を送るためにテレタイプというタイプライター端末を備えた物も存在した。特に商業用にはテレックスというのが有名だ。だから「電信」と訳した方がいいかもしれない。
それにしても1950年代という時代を考えたらケーブルテレビはあり得ないだろうと思うのだが、今の英語圏の若い世代は電報という存在を知らないのだろう。アメリカでは2006年にウェスタンユニオン社が電報サービスを終了している。日本でも慶弔以外ではほとんど利用されていないようだ。昔は小説やドラマなどで「シキュウカネオクレ」とか「チチタオレル」とか「サクラサク(ご存じない方は何の意味か調べてみてください!)といった電報を目にしたものだったが。
電報といえばホームズである。「ツゴウヨケレバコイ ワルクテモコイ」という有名な電報が登場するのは「シャーロック・ホームズの事件簿」に収録されている「這う人」だ。以下は記憶で書くのだが「人は電報の文章を考える時、限られた文字数で用件を伝えようと考えるので、いきおい論理的でムダのない文章になる」と電報の効用を語っていたセリフがあったと思う(間違っていたらすみません!)。電話が普及する以前の時代なので、ホームズ作品では電報が頻繁に登場する。まあ時代ということなのだろう。
そういえば2016年の大統領選挙で似た話があったことを思い出した。トランプとヒラリー・クリントンの戦いとなった本戦の前、民主党候補を争ってクリントンとバーニー・サンダースが火花を散らしていた時に、新聞で驚くべき記事を読んだのだ。
記事は、金持ちへの重税、国民皆保険、学費無料などの公約を打ち出し、自らをDemocratic Socialist=民主的社会主義者と称していたサンダースが若者を中心に支持を集めていると書いていた。ソ連崩壊後、アメリカでも「社会主義」という言葉にアレルギーがなくなってきたのだろう。記事は続けて、ある若者が「サンダースはソーシャリストと称しているが、フェイスブックと関係あるのか」と取材者に逆に質問したと書いていた。その前の大統領選でオバマがフェイスブックを大々的に利用したのは記憶に新しい。似たようなことをサンダースもやっていたのかと思ったら、そうではない。その若者は「ソーシャリスト」という言葉を聞いて「社会主義」という言葉が出て来ない。ソーシャリストで連想するのは「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」、即ちSNSだというのだ。
うーん、やはり時代なんですかね。♪The times they are a-changin’…
(ということで本コラムの題名はあれで正しいです!)