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翻訳の現場から


2022.04.15

風間先生の翻訳コラム

コラム第88回:サクラサク

サクラサク

 前回のコラムで2016年のアメリカ大統領選の民主党候補選で、サンダースが公約のひとつに学費無料(これは公立大学の学費のこと)を挙げた話を書いた。今は4月、入学の季節だ。そこでアメリカの大学の学費について少し書いてみたい。アメリカの入学は9月だろうって?まあ、そこは郷に入ればということで…
 そもそもアメリカの大学の学費は日本や諸外国に比べてもダントツに高い。州立大でも年間1万~2万ドル、私大だと4.5万~5万前後。アイビーリーグだとさらに高くなる。これに寮代(またはアパート代)や生活費などがプラスされる。地元大学に通う場合でもアメリカは国土が広いし、仮に近くにあっても友人とアパートをシェアするなど自立する学生が多いのだ。
 ちなみに日本だと、入学金を除く授業料は私立の文系で80万円前後、理系で120万~150前後、医歯系で300万弱というのが平均的数字のようだ。国立だと標準額は50万円台と安い。
 アメリカの子供は中学生からベビーシッターなどで働いて小遣い、高校生なら+ガソリン代(基本は通学用)などは自分で稼ぐというのが普通。そういう風潮だから大学の学費も自分で払うのが当たり前だ。もちろん実際には本人が全額出すわけではなく、親がトータルの3分の1を目安に生後すぐから積み立て、残りは本人が奨学金や学生ローンで払うというのが一般的なようだ。ただし進学を控えた親の10人に4人は学費用の貯蓄が一銭もないという。ちなみにアメリカの奨学金は返金不要である。
 また、金のない学生は、例えばハーバードに合格したとしても、初めの2年間はコミュニティ・カレッジ(2年制で日本の短大に近い)で単位を取って、3年生になってからハーバードに編入するという技を使う。合格の権利は2年間持ち越せるので、2年後の入学が可能なのだ。ちなみにコミュニティ・カレッジは19州で授業料が無料となっている。
 それでも学生ローンは大きな負担だ。実際、結婚して子供ができてもローンを返済している人は多い。その昔、リーマンショック後の不況で仕事をクビになり、ローンだけが残ってトレーラー暮らしという人をニュースでやっていた。現在もコロナ禍の不況で、同様にローンに苦しむ人は多い。
だから大統領選で、争点の一つに学生ローンが挙がるのだ。ニューヨーク連邦準備銀行によると、2017年にアメリカ国内で学生ローンを抱えた人は約5000万人、国民の6人に1人を占めていた。単に若者や子育て世代向けの甘言ではなく、社会問題になっているのだ。民主党候補のサンダース氏は2016年に続き、2020年の選挙でも学生ローン全額免除、公立大学の無償化を目指すとし、大学生を中心に支持を得た。当選したバイデンも“学生ローンのうち1万ドル分の返済を免除する”と発言した。
 ここでいう学生ローンとは連邦ローン、つまり米政府が学生に貸し付けるローンのこと。アメリカの学生ローンの大半は連邦ローンである。そして未返済のローン総額は日本の国家予算を超える1兆7000億ドルに達するのだそうだ。
 しかしローン免除は思わぬ反発も生んでいる。中卒、高卒者から、大学生だけを優遇していると不満が噴き出たのだ。この不満を口にする労働者階級がトランプ支持者と重なる。さらにローン対象者は黒人や女性が多いので、人種間、男女間の問題にもなっているらしい。さらにコロナによる失業対策等で国家予算が底をつき、ローン免除の財源確保が厳しくなっているようだ。
 それにしても、これってローン帳消しもいいが、そもそも高すぎる学費を何とかすべきでは?

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