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翻訳の現場から


2022.05.17

風間先生の翻訳コラム

コラム第89回:鹵獲

鹵獲

 先月ファイナル・シーズンの放送が終わったアニメ「進撃の巨人」だが、どんな結末を迎えるのかと楽しみに待っていたら完結編は2023年放送と出たではないか。それならファイナルと銘打たないでいただきたい!
 その中のあるエピソードで、主人公の仲間が港を偵察して次のようなセリフを言う――「あれはマーレ軍から“ろかく”した巡洋艦だろ」(マーレとは主人公たちと敵対する国のことだ)。僕の耳には“ろかく”と聞こえた。状況から、巡洋艦は敵から奪ったものと思われる。だが“ろかく”というのは初めて聞く言葉だ。一体どういう意味なのだろうか?
 これは“ろかく”でいい。漢字で書くと「鹵獲」となる。知らないと読めない字だ。戦場で敵の兵器や軍用品、物資などを奪い取ることを意味する。奪うだけでなく、降伏した敵を武装解除する際に兵器を取り上げたり、撤退の際に遺棄していった兵器を手に入れることも鹵獲と言う。当然、奪った兵器は再使用される。だから兵器を捨てて撤退する場合は、鹵獲されないように自らの手で破壊してから撤退するのが常識となっている。
 ウィキによれば「接収」や「捕獲」と言う場合もあるが、軍事用語としては「鹵獲」が適当だとのことだ。例えば「日本軍鹵獲機秘録」という本が出ている。第二次大戦中に旧日本軍が鹵獲した英米の軍用機について書かれた本で、機体の色を塗り直して日の丸をつけた欧米機のイラストが載っている。ネット上で調べると、当然ながら軍隊関係の記述で鹵獲というのはよく出てくる。
 ネットで次によく出てくるのがガンダムだ。シリーズを重ねた有名なアニメだが、簡単にまとめるならロボット兵器を使って戦う戦記物語と言っていい。そこで、それぞれの軍が敵のロボット――モビルスーツを鹵獲する、または鹵獲したらという設定で、プラモデル、フィギュア、カードなどいろいろ展開があるらしいのだ。プラモデルの場合は自分で改造するか、鹵獲モデルを発売しているのかは不明だが、通常とは違うカラーリングにしたりマークを入れるというのはモデラー心、コレクター心をくすぐるらしい。
 ということで「鹵獲」という、普通の人は見たことも聞いたこともないであろう言葉は、ミリタリーファン、そしてその流れを汲むガンダムのファンにとってはなじみがある言葉のようだ。ガンダムだけでなく戦記アニメが好きな人は案外知っているのかもしれない。
 さて、これは字幕のコラムであるからして、当然話題は「鹵獲」という言葉を字幕で使うかという考察になる。調べるまでもなく「鹵」は常用漢字以外だし、ルビがないとまず読めない。普通なら使わないという判断になるが、これは上述のように軍事用語だ。戦争映画なら、正確性を出す意味でも雰囲気を出す意味でも安易に却下というわけにはいかない。悩むところだ。
 ただ、読めないだけでなく意味も伝わりにくい。「鹵獲」と書いて通じなければ意味がない。「視聴者は分かりません」とクライアントはチェックで引っかけてくるだろう。また、該当する英語だが「鹵獲」という名詞はprizeを使うようだ。「鹵獲する」という動詞になるとmake prizeという言い方もできるが、もっと簡単にcaptureを使う。素直に考えたら「捕獲」「接収」といった分かりやすい言葉を選びたくなる。船だったら少し難しい「拿捕」を使うかも。いずれにしても難しい「鹵獲」というのは選びにくい。
 例えば架空の戦記映画などなら「捕獲」「接収」を使い、第二次大戦を舞台にした作品なら初稿で「鹵獲」と出してみるかな……でも絶対にチェックで上がってくるぞ!

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