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翻訳の現場から


2026.01.20

風間先生の翻訳コラム

コラム第133回:空とは何者か?

空とは何者か?

 2024年に「ストップ・メイキング・センス」がレストアされてリバイバル公開され、話題を呼んだトーキング・ヘッズ。そのリーダーだったデヴィッド・バーンが昨年秋に新作「フー・イズ・ザ・スカイ」を発表した。Who Is The Sky/空って誰?という不思議なタイトルだが、実はこれには理由があったのだ。
 実はこれ、”Who is this guy?”/この人は誰? のいわゆる空耳なのである。本人がfacebookで語っている動画が上がっているが、ある人が音声変換でメールをバーンに送ってきた。しかしWho is this guy?と言ったのがWho is the sky?と変換して送られてしまったらしい。バーンはすぐに間違いだと気づいたが“詩的な間違い”(本人はpoeticと言っていた)だと思って、新作のタイトルにすることにしたらしい。その時、同時にアルバムのビジュアルも思いついたのだそうだ。自分が何かのコスチュームを着て、誰だか明瞭に分からないようにするというものだ。実際のアルバムカバーを見ればバーンの意図が分かる。下記を参照されたい。
https://www.hmv.co.jp/news/article/250616122/

 それにしても、なぜバーンはWho is the sky がWho is this guyの間違いだとすぐに気づいたのだろう。勘がいい人なのか――実はそうではない。このフレーズは向こうでは有名な空耳なのだそうだ。一番よく知られているのはジミ・ヘンドリックスの“パープル・ヘイズ”だ。歌詞の中でExcuse me while I’m kiss the sky.というフレーズがある。「空にキスしてくるからちょっとごめんね(=少しの間失礼するよ)」という意味だ。この歌詞自体は夢について書いたとか、LSDでハイになったことを歌ったなどいろいろな説があるが、要はナンセンスな歌詞ということだ。
 これがExcuse me while I’m kiss this guy/この男にキスしてくるからちょっとごめんね と聞き間違えられていて、向こうでは有名な空耳として知られているのだ。ジミ自身もこの空耳を面白がり、コンサートでわざと空耳の歌詞で歌うこともあったそうだ。ジミの歌詞でもバーンのメールでもそうだが、this guyとskyと聞き間違いやすいということらしい。確かに自分で発音してみると似ていると感じる。
 聞き間違いの背景には、昔のアメリカやイギリスのレコードには基本的に歌詞カードがなかったということがある。だから間違った歌詞で覚えている人も多いらしい。シングル盤にいたっては表紙すらない。紙袋にシングル盤が入っているだけなのが普通だった。“パープル・ヘイズ”もシングルカットされた曲である。これに対して日本の昔のシングルは、表紙(といっても紙1枚の場合がほとんどだが)の裏には必ず歌詞と、場合によっては簡単な解説のようなものが書いてあったものだ。
 ちなみに歌詞を最初に載せたのはビートルズである。1967年発表の名盤「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」ではジャケットの裏カバーに全曲の歌詞が印刷されたが、ロックのアルバムとしてはこれが初だった。

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