黒人の髪形(女性編)
第82回のコラムで映画「リスペクト」に絡めてアレサの髪形の話をしたが、今回から2回にわたって黒人の髪について書いてみたい。まずは女性編。一般的に女性は男性よりも髪を長くすることが多い。これは黒人も同じで、そうなると本来のカーリーヘアーだと髪が膨れあがってしまう。それを避けるため、子供の場合は三つ編みなど、髪を編んでまとめることが多い。他には、いわゆる編み込みがある。コーンロウとかブレイズという髪形がそうだ。コーンロウは髪を三つ編みや四つ編みにして頭皮に沿って編み込むもの。仕上がりがトウモロコシの畝を想起させるのでこの名がある。これに対してブレイズは、編んだ髪を頭皮に沿わせず、ロープ状にして垂らすスタイル。この両者を組み合わせ、頭全体はコーンロウ、襟足からブレイズという髪形もあるそうだ。
だが、これらとは別にカーリーヘアーをストレートにする方法が2つある。1つはリラクサー/relaxerを使う方法。リラクサーとはジェル状/クリーム状の縮毛矯正剤。成分は水酸化ナトリウム。これは劇薬で、肌に付くと火傷をする。そんな危険な物を髪に付けるわけだ。一度使うとストレートヘアーを求めて使い続けるのでcreamy crack(クリームの麻薬)とも言われる。
日本だと黒人とのハーフの女性はストレートパーマをかけるのが普通だ。縮毛矯正のストレートパーマは通常より料金が高くなり、2万円前後。ちなみに普通のパーマなら6000~1万円前後、縮毛矯正は高いという認識が一般的だ。ちなみに縮毛矯正をして、そこからカーリーに戻す時が大変らしい。ハーフの女性がYouTubeでアグリーと言っていた。髪が伸びると生え際がカーリーで、その先はストレートという状態。だから伸びきって全体がカーリーになるまで髪形がひどい状態になるのだそうだ。
ストレートにする別の方法がウィーヴ/weaveだ。いわゆる付け毛で、地毛に編み込む。エクステより手が込んでいて、3時間から5時間かかることも。さらに高額。程度にもよるが1回1000ドル、いい物になると3500ドルにまでなる。
使う髪だが、人工毛もあるが高級品は人毛で、その供給元がインドやマレーシア。当地では宗教の関係で女性はトンスラ(いわゆる剃髪)を行う。髪は虚栄の象徴なので、それを消す(=髪を切る)ことが献身とされるのだ。この髪を業者が買い取るわけだ。需要が高いため、かなりの高価で取引される。ネット上ではブラジルからも髪を買い付けると書いていた。
ストレートにした黒人女性は髪に触られることを嫌う。夫や恋人でも黒人女性の髪には触れられない。もしもウィーヴだと、取れたり乱れることを嫌がるから。だから黒人女性は水に入っても決して泳がない。ウィーヴが取れたり、リラクサーが海の塩やプールの塩素で落ちることを恐れるから。セックスの際にウィーヴが気になるので絶対に上になるという女性もいる。
そもそも黒人女性は非黒人(例えば白人女性など)から髪を触られるのを嫌がる。例えば見知らぬ黒人のうねるようなブレイズに驚き、いきなり髪を触る白人がいるのだそう。悪気はなく、黒人の毛が珍しくて触るのだが、触られた当人は、物珍しい→相手を動物のように思って無邪気に触る→無意識に相手を下に見ている→だから他人なのにいきなり触る→同じ白人に対しては決してやらないだろう、といった考えが浮かぶのだそうだ。
また、黒人が髪をきれいに維持する苦労も知らずに触ってくるという無神経さも含まれているという。ビヨンセの妹、ソランジェがDon't touch my hairという曲を出しているが、その中で「私の髪に触らないで、私の魂に触らないで」と歌っている。
*本コラムの写真の髪形はブレイズ。
**本稿を書くに当たっては映画「グッド・ヘアー」、他ネット上の記事を参考にした。