偽りの友

フランスにいる知人からメールが来たのだが、今、市民講座/formation civiqueというのに通っているとあった。フランス在住の移民が受けなければいけない4日間の講座だとのこと。移民がフランスをより理解し、生活しやすくするためのお役立ち情報を講師から教えてもらう講座らしい。フランスとはどういう国か、市民にどんな権利があるのか、仕事を見つけるにはどうすればいいか、といったことを教わるのだそうだ。
僕はフランス語は分からないのだが、civiqueが「市民」なのは検討がつく。formationは英語のformationと同じだから「市民形成」というわけか。面白い言い方をすると納得したのだが、一応formationを調べてみると、これが何と「訓練」の意味なのだ。クラウン仏和辞典には①形成、生成、成立 ②育成、養成、知識、教養(以下略)となっているが、例えばGoogle翻訳で調べると「トレーニング」と出る。また、フランス語会話のページで「教育」の意味で使うと解説しているものもあった。文脈によって変わるのかもしれないが、フランス語の門外漢としては何が第一義なのかが分からない。
英語のformationをランダムハウスで引くと①形成(過程)、構成、成立 ②構造、組み立て ③形成されたもの ④隊形、陣形(以下略)とある。ただし①の形成には育成、発達という意味も載せていて、例えばthe formation of iceで結氷という例文を載せている。どうやら水が氷に発達して、結果として氷が形成される、つまり「発達して形成される」というニュアンスがあるのだろう。それにしても「教育」や「トレーニング」の意味は英語にはない。
さて、知人に「市民形成かと思ったら訓練の意味なんだ」という旨のメールを返すと、返事が来た。確かにformationは訓練の意味になるそうで、こういった紛らわしい言葉をfaux-amis=偽の友達と呼ぶのだそうだ。他にもlibrairieが図書館ではなく本屋だったり、locationが場所ではなくレンタルの意味になったりで、面白いが混乱すると書いてきた。
なるほど“偽の友達”とはうまいことを言うと感心したのだが、ついでにfaux-amisを検索にかけてみたところ、さらに面白いことになった。これは英語でもまったく同じ意味でfalse friendと言うのだ。そして日本語ではこういうのを「空似言葉」と言うらしい。空似言葉についてはウィキにページがあり、様々な例を載せている。
英語とフランス語で“偽の友達”が多い理由のひとつとして1066年のいわゆる「ノルマンの征服」が挙げられる。ノルマン人は北方系のゲルマン人で、フランス北部のノルマンディーを征してフランス化した後、イギリスに渡ってサクソン人を征服、ノルマン朝を建国した。これにより大量のフランス語がイギリスに流入したのだ。特に食肉が顕著で、牛は生きている間はオックスとかカウだが、これが肉になるとビーフとなる。これはフランス古語で牛を意味するbeefが由来だ。ポーク、マトンなどもすべてフランス語由来である。
空似言葉で面白かったのは、漢字が介在する例もあるということ。例えば日本語と中国語などだ。「手紙」が中国語ではトイレットペーパーの意味だというのは、クイズなどで有名だろう。ウィキの他の例を見ると、百姓が人々、大衆、庶民の意味になったり、心中(物騒な方デス)が文字どおり「心の中」の意味になるなど、読んでいて面白い。
やはり語源を同じくする言語同士は、伝わる過程でいろいろな変異が起きるのだろう。伝わった時の意味から年数が経過して意味が変わることもあるだろうし、逆に元の国では意味が変わったのに、古い意味が残ったままという例もあるはずだ。そしてここからは素人の想像なのだが、その中にはきっと勘違いや誤訳が原因になった変異もあるのではないか。僕としては、その原因を作る人間に自分がならないことを願うばかりである。













