TEL
03-5544-8512

休校日:日曜・月曜・祝日


資料請求
お問い合わせ

MENU

翻訳の現場から


2026.02.21

風間先生の翻訳コラム

コラム第134回:目覚め

目覚め

 言葉は生き物であり、時間の経過で意味が変わることがある。最近改めてそう思わせてくれたのがウォークという言葉だ。英語ではwoke、つまりwakeの過去・過去分詞形で、目覚めた状態ということから目覚める、悟るという意味になる。調べ物をした時に(作品名は忘れてしまった)あるネットの情報ページをブックマークしたのだが、今見返すと2018年の記事だった。
 ウォークとは人種差別や性差別、LGBT差別といった社会問題に対する気づき、目覚めという意味で使われる。例えば「○○監督の新作SFは宇宙人が受ける差別を描くことで人種差別を訴えているすごくウォークな作品だ」といったように使われる。“意識高い系”と言えば分かりやすい。差別以外でも、例えば地球温暖化に敏感な人などにも使う。
 この言葉がアメリカで使われ出したのは2010年前後らしいが、決定的に広まったのはBLM運動によってだ。2014年にマイケル・ブラウンという黒人が射殺されるという事件が発生。その翌日、ファーガソンでデモ行進と暴動が起きる。これがファーガソン騒動と呼ばれ、これでBLMが世界的に認知された(日本で認知されたのは2020年のジョージ・フロイド殺害事件だろう)。この騒動以降、Stay wokeという言葉がSNSで拡散されたり、この文句のTシャツを着てデモに参加する人間が増える。“ウォークでいよう”ということだが、目覚めろ、目覚めたままでいろという意味が強いと思う。僕はスパイク・リー作品のキーワード“Wake up!”を想起した。
 しかし行き過ぎたウォークはやがて反発を生む。意識高い系の価値観の押し売りであるとか、ウォークのせいでジョークも言えないとコメディアンが嘆くとか、気候変動を訴えながらプライベートジェットに乗るセレブなど、問題や矛盾が見えてきた。僕は昔のポリティカル・コレクトネス、いわゆるPCが社会への問題意識から始まりながら、その窮屈さから「政治的に正しいおとぎ話」という本が出たことを思い出したが、実際ウォークの歴史はPCと似ていると主張するアメリカの評論家がいる。つまり左派から発した運動を右派が侮蔑するという流れである。揺り戻しと言ってもいいかもしれない。
 そして決定的だったのは第2期トランプ政権の誕生だろう。トランプは2025年3月の施政方針演説でバイデン政権のDEI(多様性、公平性、包括生)を非難し、DEIの取り組み停止の実績を掲げたうえで“米国は二度とウォークにはならない”と発言した。これで完全にウォークは非難、嘲笑、侮蔑の意味で使われる言葉となった。
 さて、ウォークの語源だが、ブックマークしたページでは2008年の黒人歌手エリカ・パドゥの“マスター・ティーチャー”という曲だという説を紹介していた。歌詞の中でI stay wokeという言葉が何度もリフレインされるのだ。2000年代の流行の契機は恐らくこれだろう。しかしwokeという言葉自体は黒人の間で昔から使われていた。本来wokeはwakeの過去形であり、過去分詞はwokenが正しい。だが黒人英語ではwokeをwokenの意味でも使うようになり、やがて形容詞awakeと同じ意味、すなわち“目が覚めている”“油断のない”という意味を持つようになったのだ。
 さて、ウォークを世に知らしめたミュージシャンがもう一人いるのだが、これを書き出すと長くなるので稿を改めたい。ということで、この話は次回に続きます。

アーカイブ

ランキング

最新記事

一覧に戻る

資料請求・お問い合わせ CONTACT

当サイトをご覧いただきありがとうございます。当校の映像翻訳講座に関するお問い合わせ、資料のご請求は下記のメールフォームより受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

資料請求・お問い合わせ

資料請求
お問い合わせ