花が見えます

『炎の少女チャーリー』
6月17日(金)公開
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間もなく公開される「炎の少女チャーリー」はホラーの帝王スティーヴン・キング原作「ファイアースターター」2度目の映画化だ。この邦題は1984年のオリジナル版と同じだが、元々は原題どおり「ファイアースターター」を予定していたところ、同時期に「ストリート・オブ・ファイヤー」が公開されていたため、混同を避けるために「炎の少女チャーリー」となったそうである。
さて、劇中で主人公のチャーリーが不安になった時に、父親が目に入ったものを言わせる場面がある。後の場面ではチャーリー自身も学校で怒りを覚えた時、目の前に並ぶ文房具の名前を次々につぶやく。映画ではきちんと説明していないが、これは不安障害やパニック障害、つまりは不安になったり怒りを覚えたりイライラした時に、それを抑える対処法なのだ。正式な名称は分からないが、日本では「5-4-3-2-1法」と言われているようだ。英語でも単に“the 5-4-3-2-1”とか“the 5-4-3-2-1 method”、“~ tool”、“~technique”などと呼ばれている。
実は劇中でチャーリーの部屋が映る時、壁にポスターのような物が貼ってある。映る時間が短いので一部しか訳出しなかったが、これは5-4-3-2-1法のやり方が書いてあるのだ。つまり標語がわりに貼ってあるというわけ。内容を全部訳すと「目に見えるもの5つ 感じるもの4つ 聞こえるもの3つ におうもの2つ 味わえるもの1つ」となる。つまり五感で感じられることを指定した数だけ挙げることで、それに意識を集中させて不安な心を落ち着かせる方法なのだ。できれば「花が見えます」「鳥のさえずりが聞こえます」などと声に出して行うと効果的らしい。
最後の1つについては、実際に口に何かを入れなくてもよく、その時舌に残っているコーヒーの味や歯磨きの味などでもいいらしい。だが日本だと「自分の好きなところ1つを挙げろ」と変わっている場合がほとんどだ。以下は私見だが、口中に何の味も残っていない、または思い出せないことも多いので、やりやすい「自分の好きなところ」に変えたのではないか。
そういえば「オールド」でも似た対処法が出てきた。主人公一家の息子が死体を発見してパニックになると、母親が「リストを作って」と言う。言われた息子は赤、オレンジ、緑と次々に色を挙げていく。これも劇中では詳しい説明が出てこないのだが、どうやらコーピング・リスト/coping listと呼ばれる方法らしい。こちらも日々感じるストレスへの対処法と説明されることが多い。copingとは対処するという意味だ。
これはストレスを感じた時の対処法を100個書き出し、リストにして持ち歩き、ストレスを覚えたらリストのどれかを実行するというものだ。書くことは何でもいい。コーヒーを飲む、香水を嗅ぐ、好きな音楽を聴く、映画を観る、など次々に挙げていく。上司に説教された時など具体的な状況を想定し、「上司の顔のほくろの数を数える」「“やってられない”と心でつぶやく」「帰りに絶対ラーメンを食べる」などというのもありだそうだ。
スクールカウンセラーが小学校の低学年を相手にする場合は、複雑な言葉ではなく、塗り絵の要領で色を使う方法もあるようなので、「オールド」のケースはコーピング・リストの変形ということなのだろう。
5-4-3-2-1法にしてもコーピング・リストにしても、ストレスをため込まず、意識を転換するというのがポイントのようだ。よし、これからうまい訳が浮かばなかったら「コーヒーを飲む」「好きな音楽を聴く」…… ちぇっ、いつもやってるやつじゃないか!













