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翻訳の現場から


2024.03.13

風間先生の翻訳コラム

コラム第111回:白人で21歳で自由

白人で21歳で自由

 少し前にやった作品で、若い主人公が“Free, white and 18”と言う。文脈からして「自分はもう大人なんだから好き勝手にできる」という感じだろうと推測はつく。調べてみると、本来のフレーズは“Free, white and 21”だったということが分かった。普通に訳せば「自由で白人で21歳」となる。使う場合はI'm free, white and 21という言い方をして、やはり「私を拘束することはできない。自分の好きにやれる」という意味で使う。
 このフレーズは1930~40年代のハリウッド映画でやたらに出てきたらしい。ただしフレーズが生まれたのは1800年代のアメリカ。つまりまだ奴隷制があった時代であり、白人で21歳であれば自由であり、一人前だ、ということを意味していた。21歳というのは、当時の選挙権が与えられた年齢、つまり成人年齢を意味する。
 アメリカでは70年代に成人年齢が引き下げられ(例によって州ごとに違うので年は前後するが)18歳となった。これは徴兵年齢が18歳なのに選挙権が21歳というのは不公正だというのが理由だ。だから冒頭のフレーズの18というのは、オリジナルの年齢を現在の状況に合うようアレンジしたわけだ。ちなみに、ここで言う成人年齢というのはあくまで選挙権を基準としていて、現在でもアルコールが飲めるのは21歳からだ。
 さて、オリジナルのフレーズを口にするのは当然ながら白人である。1930~40年代は、女性がこのフレーズを言うことが多かったそうだ。当時“自由”だったのは男性であり、それへの対抗としてこの文句を口にした。「女だからってバカにしないで。私だって白人で21歳の自由な人間なんだから好きにできるのよ」と抗議の声を上げるというわけである。抗議だけでなく「私はもう大人なんだから好きにさせてもらう」といった軽いノリで使われることもあるし、中年の男性が“I'm free, white and 45”とジョークにするセリフもあったらしい。
 このフレーズについては続きがある。察しのいい方は既にお気づきだろうが、黒人が問題視するようになったのだ。白人だから自由ということは、黒人は自由ではないのか――そして実際に黒人を囲む状況は自由でなかった。
 それを象徴するセリフがある映画で出てくる。1959年制作の“The World, the Flesh and the Devil”という作品で、日本では劇場未公開。「地球全滅」という邦題でテレビ放送された。人類が滅亡し、男性2人と女性1人だけが生き残るというSFサバイバル系の物語らしい。この中で白人女性がこのフレーズを口にすると、後でハリー・ベラフォンテ扮する黒人の男性が次のように言う。Little while ago you said you were "Free, white and 21." That didn't mean anything to you, just an expression you've heard for a thousand times. Well to me it was arrow in my guts !
 ちょっと前に君は「白人で21歳なんだから私は自由なのよ」と言ったね。君にとっては何でもない、何千回と耳にした言い回しのひとつだったんだろう。だが僕には、矢のようにはらわたに刺さったよ。
 こういった黒人の抗議の声を受けて、現在ではこのフレーズの使用は廃れていると言っていいそうだ。

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