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翻訳の現場から


2026.04.28

風間先生の翻訳コラム

コラム第136回:警戒せよ 続・目覚め

警戒せよ 続・目覚め

 前々回に書いたとおりウォーク/woke (またはstay woke) という言葉が気になったのは2018年前後である。興味を持って暇な時に調べていたのだが、コラムで取り上げようという気になったのは昨年2025年に聴いたラジオがきっかけだった。5月に「ロックの礎を築いた男:レッド・ベリー」という音楽ドキュメンタリー作品が公開されたのだが、この作品で監修を務めた朝日順子さんが、ウォークという言葉を最初に録音した人間はレッド・ベリーだとの発言をしていたとラジオで聴いたのである。
その前にレッド・ベリーについて少し説明しておこう。レッド・ベリーは1900~1940年代に活躍したフォーク、ブルースの黒人ミュージシャンだ。当時の労働者や刑務所で歌われていた多くのフォークソングやブルース、いわゆるトラディショナルと呼ばれる曲を発掘、採取してレコードに残した。有名なところでは“ミッドナイト・スペシャル”がそうだ。古い話で恐縮だが映画版「トワイライトゾーン」の冒頭エピソードでオープニング曲としてCCR版の“ミッドナイト・スペシャル”が流れる場面は印象的だ。
それだけでなく、彼は自作の曲で当時の有名人――例えばフランクリン・ルーズベルトやヒトラーなどを取り上げたことでも知られている。そんな中の1曲にスコッツボロ事件について書いた“The Scottsboro Boys”というのがある。
事件は1931年にアラバマ州で起きた。貨物列車内で2人の白人女性を強姦したとして、9人の黒人青年が逮捕され、最年少の13歳の少年を除く8人が死刑判決を受けた。しかし実際はずさんな裁判によるでっちあげ、冤罪だった。8人は処刑寸前までいくが、アメリカ共産党とNACCP(全米黒人地位向上協会)が抗議の声を上げ、彼らの運動によって1932年に連邦最高裁で再審が認められた。それでも4人が懲役75年から最長の者は終身刑となり収監。最後に仮釈放が認められた者が出所したのは1950年である。この内、最も長生きした者は1976年に知事の恩赦で無罪が認められた。事件から実に45年後のことだ。他の3人は仮釈放から10~20年前後で亡くなったため、死後の恩赦という形で2013年にやっと無罪が認められている。
話を曲に戻すが、レッド・ベリーが“The Scottsboro Boys”を録音したのは1938年のこと。その前年に収監されなかった4人が嫌疑を取り下げられ、釈放されている。レッド・ベリーはスコッツボロ・ボーイズについて歌った後で最後に語りを入れているのだが、その最後にStay wokeと言っているのだ。黒人たちに対して「そっち方面(=アラバマ)に行く時は気をつけた方がいい。Stay wokeで目を開けておくんだ」と締めている。そしてStay wokeというフレーズが録音されたのはこれが初めてだということだ。
ここでの“ウォーク”は目覚め、意識高い系の意味ではない。文字どおり“起きていろ”→用心しろ、油断するな、という意味だ。やはり元々は注意喚起の意味で使われていたのであり、初めて録音されたということは、このフレーズ自体の歴史はさらに古いということは容易に想像される。
 最後に冒頭で紹介した映画について少し。この映画は「ビートルズとボブ・ディランの原点」という副題が付いている。レッド・ベリーはフォーク、ブルースのミュージシャンだからディランの原点というのは分かりやすいが、ビートルズの原点とは?これは彼が“ロック・アイランド・ライン”というトラディショナル・フォークを発掘してレコーディングしたからだ。後にこの曲をイギリス人の歌手ロニー・ドネガンが取り上げてイギリスで大ヒットさせる。ドネガンはスキッフルの王と呼ばれていて、この曲に触発されてイギリスの若者の間でスキッフル・グループが大流行する。その中の一つが、ジョン・レノンが結成したクォーリーメンである。このグループにポール・マッカートニーが加わり……後はご存じのとおり。だからビートルズの原点なのだ。
 ちなみに今回の写真は警戒する動物でおなじみのミーアキャットです。

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