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翻訳の現場から


2016.06.14

風間先生の翻訳コラム

コラム第18回:お勧め株は鳥に聞け!

お勧め株は鳥に聞け!

全米人気の財テク番組がジャックされる。犯人の目的は?その裏に隠された真実とは?「マネーモンスター」はジョディ・フォスターが久しぶりにメガホンを取った最新作だ。映画のタイトルにもなっている財テク番組の司会者、リー・ゲイツを演じるのはジョージ・クルーニー。彼は番組内で細かいギャグを振りまくる。それを少し取り上げてみよう。

一番多いのは言葉のギャグ、言葉遊びの類だ。要はダジャレである。例えばfull moon=「満月」をfool moon=「愚かな月」と聞き違えるといったものだ。字幕ではよくルビ処理で「満月:フルムーン)」「愚かな月:フールムーン」などとやるが、ギャグは解説されるとお勉強になってしまう。なるほどと思っても笑えない。もっとも、これは想像で書くのだが、ネイティブも爆笑するというよりはニヤリとして「うまい!」と思うぐらいなのではないか。

これを「マネーモンスター」では、テレビ番組らしく言葉ではなく映像で受ける。例えば番組中でリーがYou got your ass smacked.と言う。直訳すれば「尻を叩かれる」、つまりお仕置きで尻を叩かれることだが、劇中では「大損をしただろ」という意味で使われている。これに被せて、男が尻をロバに蹴られる映像が挿入されるのだ。古い映画かアーカイブ映像だろう。実はロバというとdonkeyの他にassという言い方があるのだ。つまりセリフのass=尻に映像のass=ロバを掛けているわけだ。

イディオムに絡めたギャグもある。値下がりを続ける銘柄について、株価は上げ下げするから一喜一憂するなと説くリー。この時、彼はGrow some ballsと言う。このballsとは睾丸、つまりタマのこと。直訳すれば「もっとタマを成長させろ」となるが、「度胸を見せろ」「根性を出せ」という意味のイディオムなのだ。番組ではリーがこのセリフを言うと、バスケットボールが大量に転がる映像が現れる。タマと球のシャレだ。かなりベタである。

ちなみに、このイディオムは他にgrow a pairとも言う。そう、タマは2つ1組ですからね。前に別の映画でこの文句が出て来て、その時は好きな女を口説ききれない男に対するセリフだった。初見では「ペアになれ」→「カップルになっちゃえよ」と言っているのかと誤解していたことを思い出す。

推奨株を紹介するコーナーで、リーはlisten to our little birdyと言う。「いつものようにうちの小鳥ちゃんの話を聞こう」という感じか。これもa little bird told meというイディオムを踏まえている。「風の便りで聞いた」「噂を聞いた」という意味で、A little bird told me that you got a new job.などと使う。これは旧約聖書の伝道の書第10章にある「空の鳥が噂を伝える」という文句が由来とされている。

リーはこのイディオムを踏まえて、鳥に推奨株を聞こうと言っているわけだ。続けて彼は「鳥はどこだ?」と言う。実は、これより前の場面で鳥をめぐるエピソードが挿入されている。番組ではこのコーナー用に、鳥のぬいぐるみを入れた鳥かごを用意していた。そしてリーは本物のハトが欲しいとゴネていたのだが……おっと、ネタバレになるのでこの辺にしておきましょう。

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