ウーバー・ワールド
以前から気になっていた言葉があった――「ウーバー」だ。一昨年やった某作品に登場したのだが、その時点でウィキペディアに「Uber」で項立てしていた。スマホで呼べるタクシーのようなもので、ドライバーが一般人らしい。日本法人もあるのだが、こっちではハイヤーのような営業をしているようだ。映画では、モールに来て帰る手段がなくて困っている女性に「ウーバーで帰れるでしょ/Maybe she can Uber.」と言う(Uberが動詞化しているのにご注目いただきたい。英語は固有名詞を動詞化することがままある)。その時点で日本には馴染みがないと判断し、「タクシーもあるし」と訳した。
さて、今春アメリカで試験中の自動運転車が歩行者を轢く事件が発生、この試験をしていたのがウーバーだったのだ。そこで、これを契機に少し調べてみた。まず、新聞では「ウーバー」とカタカナ表記を使い、「配車サービス」と説明していた。その実態だが、簡単に言えば“スマホで呼べる配車サービス”ということ。もちろんウェブでも呼べる。アプリをダウンロードし、あらかじめクレジットカード等の情報を入力するので、現金支払いは発生しないしチップも不要。それと運転手はタクシーのようなプロではなく、登録した一般ドライバーというのも違う点だ。一般人だと不審者もいるのでは、という懸念を払拭するため、ウーバーではアプリにドライバーの評価を載せている。これで安心できるドライバーを選べるという仕組みだ(運転手による客の評価も載せているそう)。
ということは限りなく白タクに近いわけで、日本で営業が開始されているものの、現時点で一般人による運転のサービスは行われていない。だから日本では「スマホを使ったタクシー配車サービス」という説明をよく目にする。タクシーでなく一般人が運転手になる点がウーバーのポイントなので、これは明らかに間違っている。しかし、日本においては間違っていないのだ。上述の「限りなく白タクに近い」システムのため、日本のウーバーは「スマホで呼べるハイヤー」としてサービスを開始し、現在はタクシー会社と提携を行い、タクシー配車サービスとして機能しているのだ。
しかしアメリカでは映画のセリフに出てくるように、ウーバーが大ヒットしている。理由は日本と違うタクシー事情にあるらしい。アメリカでは、東京のように路上でタクシーを捕まえられるのはニューヨーク以外ではほとんどないそうだ。都会でも難しいらしい。タクシーがいるのは駅や空港、ホテルなどだけ。そこで捕まえるか、事前にハイヤーを予約しないといけない。だからウーバーがヒットしたのだ。車社会ならではの事情だろう。
ただし、本家アメリカのウーバー社は顧客とドライバーの機密情報漏洩、社員のセクハラ、そして上述の人身事故など不祥事が相次いでいる。さらにドライバーの待遇が同業他社より悪いことなどもあり、現在地位が低下しているそうだ。ただし配車サービス(ライドシェアとも言うそうな)業界自体は上り調子らしい。
さて、以上を踏まえて「タクシー」という訳を検証してみよう。セリフの舞台はフィラデルフィアのモールだった。アメリカのタクシー事情を考えると、タクシーを拾うのは難しそうだ。だから、ある意味誤訳と言えるかもしれない。字数に余裕があれば「配車サービスもあるし」とする手か。ただ、モールでシャトルバス・サービスをやっていると誤解する人もいるかも。といって「白タクもあるし」じゃまずいよな。状況に応じて「タクシー」と「配車サービス」を訳し分けるというところか。
ちなみに、タイトルのウーバー・ワールドというのは日本のバンドの名前から。こちらはUVERworldというスペルで、ウーバーとはまったく関係ないのであしからず。