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翻訳の現場から


2019.01.10

風間先生の翻訳コラム

コラム第49回:鋼のように、ガラスの如く

鋼のように、ガラスの如く

 日米同時公開されるM・ナイト・シャマラン監督の「ミスター・ガラス」は2017年作品「スプリット」、さらには2000年作品「アンブレイカブル」の続編になる。約20年ぶりの続編というのもすごい。本作は「スプリット」や「アンブレイカブル」の世界観ありきで話が進む。キャラや用語等については必要最小限の説明しか出てこない。だから事前に上記2作品を見ておくことをお薦めする。そうでないと話に置いていかれます!
 前作「スプリット」を翻訳した縁で今回「ミスター・ガラス」の依頼が来たのだが、第1作の「アンブレイカブル」は別の翻訳者が訳している。そこで「アンブレイカブル」を改めて見て、ストーリーや用語等を頭に入れることから始めたのだが、そこで気づいたことを書いてみよう。以下、前2作を見た前提で話を進めるので、できれば視聴後に読んでいただきたい。特に一切のネタバレが嫌な方はご注意を!
・「スプリット」はラストに意外な人間が登場し「アンブレイカブル」との関係性が示唆される。しかし実はその前からヒントが出ていた。ラストのダイナーの場面の前、ビーストたち(!)が会話している場面で音楽が流れるのだが、これは「アンブレイカブル」のテーマ“ヴィジョンズ”という曲なのだ。音楽を担当したのはジェームズ・ニュートン・ハワードである。
・「スプリット」では、多重人格者ケヴィンの父親が列車事故で死んだのではと暗示させている。列車事故といえば「アンブレイカブル」だ。主人公のダンは列車事故に巻き込まれて唯一生き残った男だ。この同じ列車にケヴィンの父親も乗っていたのではという説がある。納得性が高いし「スプリット」と「アンブレイカブル」が見事にリンクする。ただし矛盾する点がひとつある。ダンが乗っていたのはフィラデルフィア行きの列車(恐らくニューヨーク発)。だがケヴィンはフィラデルフィアの動物園に勤務していた。「ミスター・ガラス」で矛盾が解かれるのか、そもそもこの説は正しいのか、これは映画を見てご自分で確認してください。
・そもそもシャマランは「アンブレイカブル」制作時点で続編を考えていたという。それが「スプリット」だというのだ。当初、僕はこじつけだと邪推していた。ラストシーンで「アンブレイカブル」と何とか絡ませて話を膨らませようとしただけなのではないかと。しかし「アンブレイカブル」を見て驚いた。スタジアムのモブ・シーンでダンが子供を連れた母親と接触する――ダンは人に触れることで相手が危険人物か分かる能力があるのだ。すると「ぶたないで ママ!」と泣き叫ぶ子供の画が浮かんだのだ。つまりこの母子はケヴィンとその母親なのだ。恐るべし、シャマラン!
・「スプリット」のキャストのクレジットが楽しい。主演のジェームズ・マカヴォイの役名として彼が演じた人格8人の名前がクレジットされている。物語では24の人格を持つとされているが、さすがに全員を出すのは難しい。8人でも驚異の演じ分けだったと思う。しかし今度の「ミスター・ガラス」は頑張ってます。全部で20人の人格が登場します。これに「スプリット」のみで登場した人格を加えると、マカヴォイは2作で21人の人格を演じ分けたことになる。さあ、あなたは「ミスター・ガラス」で20人を見分けられるか!ぜひ映画館でどうぞ。

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