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翻訳の現場から


2019.07.16

風間先生の翻訳コラム

コラム第55回:ようこそマーウェンへ

ようこそマーウェンへ

「マーウェン」
(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS
7月19日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他で全国ロードショー



 ゼメキス監督の最新作「マーウェン」は実話に基づいている。主人公のマーク・ホーガンキャンプは集団暴行を受け、頭部の打撃が原因で記憶を失い、そのリハビリとしてフィギュアで第二次大戦の場面を再現して写真を撮っている。物語はこの創作活動を通してマークの葛藤、苦しみ、そして再生を描くのだが、ゼメキスらしくそこにVFXを使った驚きの映像が絡む。
 フィギュアと言ったが、今回出てくるのはアクション・フィギュアと呼ばれる縮尺1/6スケールの人形。大きさ約30センチの男児向け玩具で、兵士姿の人形“GIジョー”が有名だ。日本では住宅事情からか1/35フィギュアの方が主流だろう。こちらは小さいので動かないのだが、アクション・フィギュアの方はその名のとおり各関節部が動くし、着せ替えも可能。自分なりに細部を改造したり、服やアイテムを自作する人もいる。海外では頭部だけを有名人や人気キャラそっくりに改造する超絶職人もいるそうだ。
 一方、女性キャラについてはバービー人形も使っている。こちらは英語でfashion doll/ファッション・ドールと呼ばれるもので、日本語でいう「着せ替え人形」だ。やはり大きさ約30センチだが、アクション・フィギュアとの最大の違いは可動部が少ないことだろう。物によっても違うが、首、腰、肩が回る程度がほとんど。動かすことより着せ替え/服がメインということだ。
 マークの物語については、先にドキュメンタリーが作られている。これにインスパイアされて作られたのが本作だ。映画ではマークについて多くが語られないので、理解の助けとして少し情報を補足してみたい。観賞の妨げにはならないと思うが、以下、物語の内容にも一部触れる。
 現実のマークは、暴行を受ける前に若くして結婚しており、海軍への従軍経験があった。後にアルコール依存症となり、酒酔い運転をして刑務所に入り、ホームレスにもなった。依存症が原因で妻と離婚している。そして暴行を受けて9日間昏睡状態に陥り、目覚めた時にはこれらの記憶を含むそれまでの人生の思い出のほとんどを失ってしまったのだ。当初は歩くことはもちろん、食べることや字を書くことも困難だったという。
 幸い、マークは日記やノートに日々の出来事やイラストを描いていて、それで自分の過去を知ったという。ちなみに映画のマークは元イラストレーターということになっているが、実際の彼は違う。ただし趣味で第二次大戦のイラストを多数描いており、アマチュアではあったがその腕前は玄人はだしだった。
 結局マークは40日間入院して回復とPTSD治療に努めるが、金銭的に治療が続けられなくなってしまう。そこで独自のセラピーとして彼が考え出したのが、自宅の庭に第二次大戦期のベルギーの町を作り、そこに人形を置いて写真を撮るというものだった。自分の分身であるホーギーは男らしい軍人。マークの知人の女性たちはホーギーの仲間、保護者。そして自分を暴行した男たちを敵役であるナチ兵士として登場させた。
 僕は翻訳しながら、なぜ人形の写真を撮ることをセラピーとしたのかがよく分からなかった。箱庭療法のようなものかと思ったのだが、どうも納得がいかない。だが現実のマークのことを調べて合点がいった。彼は元々、第二次大戦のイラストを描くと同時に、1/35のフィギュアも趣味だったそうだ。上でも書いたが、このフィギュアは動かない代わりに、サイズが手頃なのでジオラマ制作に適している。大戦期の兵士や戦車などアイテムも充実しているのだ。
 だから暴行の後遺症で絵が描けなくなったマークが、フィギュアとカメラで絵を再現しようと考えたのは極めて自然なのだ。実際、当初は1/35のフィギュアを使おうとしたが、後遺症で細かい作業ができなくなっていたため、ホビーショップの勧めで1/6に転向したらしい。そして大好きな絵、改めて写真という芸術行為を通じて再生を図ろうとしたのだ。
 マークがなぜ暴行を受けることになったのか、PTSDの克服や再生は具体的にどういう経緯をたどったのか、続きは劇場でどうぞ。

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