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翻訳の現場から


2019.09.05

風間先生の翻訳コラム

コラム第57回:教会の庭にて

教会の庭にて

 ある作品を訳していた時だ。話者が写真を見ながら感想を言うところで「この教会の庭すてき」というセリフを作った。するとチェックが入った。写真に映っているのは十字架などのいわゆる墓石。庭より墓地の方がいいのではとのコメントだ。原文はchurchyard。恐らく僕は何も考えずに「教会の庭」とやったのだろう。改めてランダムハウスを引くと、最初に「教会堂に隣接する庭」という意味があるが、続けて「教会付属の墓地」とあるではないか。しかも例文にはA green (hot) Christmas makes a fat churchyard/クリスマスに暖かくて雪がないと翌年は病気がはやって死人が多い、ということわざを載せている。これなど明らかに墓地の方の意味だ。
 最終確認の意味でchurchyardを画像検索すると、あっぱれ、出てくる写真はすべて墓地ではないか。つまりchurchyardは第1義として「墓地」と思ってよさそうだ。我ながらまだまだ仕事が荒い。写真を見て庭より墓地だと気づき、辞書で確認するようでないといけないと猛省する。ちなみに他の辞書にも目を通してみたが、英辞郎は「教会付属の墓地、教会堂に隣接する庭」とあり、墓地が第1義だ。リーダーズは「庭」が第1儀だった。
 ひととおり調べたのでこれで問題解決、と思ったのだがふと考えた。墓地といえばgraveyardやcemeteryという単語もあるじゃないか。「ペット・セメタリー」なんてキングの小説やその映画化作品もあるぞ(ちなみにこの作品はSemataryと綴る。作中の子供がスペルミスして書いた看板から取った題名であるから、こちらで覚えないこと!)。一体どう違うのだろう?調べてみるとなかなか面白いことが分かった。
 まずgraveyardというのは文字どおり墓の庭。死者を埋める場所、墓場のことだ。これに対してchurchyardは教会に隣接した区画で、しばしばgraveyardとして使われる場所のことだ。ではcemeteryとどう違うのか。これは歴史が関わってくる。
 ヨーロッパでキリスト教が主流となる7世紀頃から、埋葬は教会(=キリスト教団体)のみが行えることとなり、死者は教会(この場合は教会の建物を指す)に隣接するchurchyardという場所にしか埋めることを許されなかった。churchyardの中で、この死者を埋める場所のことをgraveyardと呼んだのだ。
だからランダムはウスでgraveyardを引くと「(しばしば田舎の小教会付属の)墓地」という説明がある。
 しかし、その後ヨーロッパで人口が増加し、すべての遺体を教会の庭に埋葬するのは不可能になってくる。そこで新たに埋葬場所として作られたのがcemeteryというわけだ。だから辞書では共同墓地、教会に属していない埋葬地などと書いてある。他に訳語を考えるなら霊園だろうか。アメリカの戦没者の墓地として有名なアーリントン国立墓地もcemeteryである。国立の墓地で、教会と独立しているからcemeteryなのだ。
 つまり教会を軸として、churchyardという大集合の中にgraveyardが含まれ、それと別の集合としてcemeteryがあるということだ。だからchurchyardを「教会の庭」と訳すのは間違いとは言えないが、graveyardとしての役割が大きいわけだから、まずは「墓地」と思っていいということになる。ちなみに今回のコラムの写真も“churchyard”で検索して見つけたものだ。

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