ハリケーン・パーティー
『クロール ―凶暴領域―』
10月11日(金) 全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
ハリケーン襲来で浸水した家に野生のワニが侵入する――「クロール 凶暴領域」は現実にあった事件にインスパイアされて作られたパニック・ホラーだ。舞台となるのはフロリダ。サンシャイン・ステートの愛称を持つ温暖な土地で、南部は熱帯に属する。州全体では不動産の50パーセントが個人宅プールを設置しているという資料もある常夏の州だ(この中には我々が想像する業者製のプールではなく、個人が作ったプールも含まれるのだが)。そんな気候だから野生のワニが多くいて、個人宅の庭に現れるということもよくある。数年前もフロリダのディズニーワールドの人工湖で、幼児が現れたワニに襲われて死亡するという事件があったのを覚えている人は多いだろう。だから浸水した家にワニが来るという設定はそれなりの説得力があるのだ。
一方でフロリダはハリケーンにたびたび襲われることでも知られている。湿地が多く、低い土地や海面下の土地もかなりあるため、ハリケーン襲来となると家にいられない人が多い。その結果、避難する車で道路が大渋滞となるのは日常茶飯事。また、ガソリンを入れるためにスタンドに延々と車の列が続くというのもよく見る光景らしい。
日本でも台風や集中豪雨で避難勧告や避難指示が出るが、アメリカの場合は強制力がある避難命令が出される。日本に“避難命令”という制度はない。こちらは命令だから、警察や州軍が避難を強制できるのだ。英語ではmandatory evacuation orderという。mandatoryとは強制という意味。だから避難する車の列ができるというわけだ。
本編中で主人公が知人の警官に「(今回は)避難パーティーはなさそう?」と訊く場面がある。字数の関係でこうしたが、正しくはハリケーン・パーティーという。若者を中心に、ハリケーンから避難するという名目で友人宅に集まりパーティーを開くのだ。当局も深刻でない場所では見て見ぬふりをするが、悪質な場合は強制退去、逮捕ということもあるらしい。いつの時代も若者はバカをやるものだ。しかし調べてみると、本来はドンチャン騒ぎではなく、昔は真面目な理由で行われていたようだ。
元々ハリケーン・パーティーというのは、米国南部のいわゆるハリケーン銀座に当たるフロリダやテキサスなどのメキシコ湾岸地域で伝統的に行ったイベントだ。ホストはゲストに長い時は3日から5日の滞在を許し、ゲストはお返しにラジオや救急キット、食料などを持ち込み、共同でハリケーンをやり過ごす。多くの場合、ホストは自宅が高台にあるがハリケーンへの備えがないため、ゲストを招くことで備えをシェアしてもらうのが目的だった。
また、ハリケーン襲来で数日から数週間の停電が予想される場合、冷蔵庫の中身、特に肉類をムダにしないために客を呼んで、中身を処分するという目的もあるのだそうだ。もちろん近年はパーティーそのものが目的な場合も多く、そうでなくても持ち込み品の中で酒が大きな位置を占めているのは間違いない。だからハリケーンが接近するとSNSで「停電の際は洗濯機に氷を入れて冷蔵庫代わりに使ってビールを冷やせ」という実用的(!)なアイデアが載ったりするらしい。
最後に豆知識をひとつ。日本では風の強さを「風速〇m」と表す。これは秒速で表した数字だ。それに対して欧米は「時速〇km」と表す――ただしアメリカはキロでなくマイル表示だが。個人的には風速(秒速)より時速の方が風の強さを実感しやすい。その場合は風速(m)に3.6を掛けてやればそのまま時速(km)になる。大雑把に4倍弱と思ってもいい。今度、台風情報を聞いたら、頭の中で計算すれば実感できるかもしれませんぞ。