車の話
公開 ソニー・ピクチャーズ
http://www.zombie-land.jp/
ゾンビだらけとなった地球で、独自のルールに従って生き抜くあの4人組が帰ってきた。10年ぶりの続編となる「ゾンビランド:ダブルタップ」だが、この10年で主演の4人はそれぞれ偉くなった。特にエマ・ストーンの活躍は目を見張るものがある。脚本を書いたのは「デッド・プール」も手がけた2人+1。細かいギャグを振りまくる。最初はギャグの解説をしようかと思ったのだが、数が多すぎて紙数が足りない。そこで今回は作品に登場する車の話をしてみたい。
主人公の1人、肉体派のタラハシーが、移動の際に使うミニバンをものすごく嫌う。こんな車に乗れるかと文句タラタラ。腹立ちまぎれにミラーを叩いたり蹴ったりする。確かにスポーツカーと比べたら見劣りするかもしれないが、そんなに嫌わなくてもと思わないだろうか。しかしアメリカ人にとっては「それ分かる!」という感覚らしい。
日本ではファミリーカーとして人気のあるミニバンだが、アメリカでの地位は微妙だ。背が高くてスライドドアなため、どうしても商用車というイメージがある。もう一つ、ミニバンは俗に“サッカー・マムが乗る車”/soccer mom carというレッテルを貼られているのだ。サッカー・マムとはアッパーミドルで、郊外に家を持つ白人の母親を指す言葉だ。彼女たちは自分の子供をスポーツクラブ(サッカーに限らない)や習い事などに通わせ、ミニバンで子供の送り迎えをする。アメリカは日本と受験事情が違い、一流大学に入るためには学業だけでなく、スポーツやボランティアの経験も重視される。だから教育熱心な母親は小さい頃から子供にスポーツをやらせるのだ。日本でいうと教育ママに近いと思えばいい。だからアメリカ人男性には、大の男や若者が乗る車ではないという暗黙の認識があるらしい。“ママが乗ってるダサい車”というわけだ。
タラハシーが乗るはずで改造も施していたのが“ビースト/The Beast”だ。これは大統領専用車のニックネーム(なぜ大統領専用車が出てくるかは本編をどうぞ)。このニックネームはジョージ・W・ブッシュ大統領(子ブッシュ)時代から付けられたらしい。防弾ガラスと強化されたボディ、生物化学兵器攻撃に備えて完全な密閉性を保ち、酸素ボンベや消化器も装備している。一説では大統領と同型の血液も用意しているとか。実際のビーストは装甲車に近い頑丈さだ。その代償として、最高時速は100キロに満たず、燃費はリッター4キロ以下だという。旅に使うには向かないかも。
タラハシーが憧れていたのが、プレスリーが乗ったことで有名なキャデラック1955年型フリートウッド シリーズ60。プレスリーはこれを2台所有していて、後に1台を母親に贈っている。ピンク色で有名なキャデラックだが、これはカタログにある色ではなく、プレスリーが自分で塗り替えさせたそうだ。派手な車体だから似合ってはいると思うが、ピンク色を選ぶセンスは個人的には分からない。やはり“真の男にしか乗れない”のかもしれないです。ちなみに、この同型のキャデラックは「ゴッドファーザー」にも登場する。ドンのビトーが乗っていたのは1940年型だったが、映画ラスト近くで幹部のクレメンザが運転していたのが1955年型だ。もちろん色は黒である――ギャングですからね。
本作の新キャラが乗っていたのがモンスタートラックと呼ばれる車だ。ピックアップトラックやSUV等のボディに、足回りを改造して高くし、直径1.7メートル前後の大人の背丈ほどのタイヤを履かせる。エンジンは船舶用の強力なものを搭載、桁違いの馬力を有する。アメリカではこれでレースを行ったり、アトラクションで並べた車を踏み潰したりする。異様な外観なだけに所有者は周囲から白い目で見られがちなのだが、数年前、テキサスを洪水が襲った時にこの車が脚光を浴びたことがある。洪水で家に取り残された住人をモンスタートラックの持ち主が救助したのだ。冠水した道は普通の車では通れないが、背が高く馬力のあるモンスタートラックなら何の問題もない。ネットニュースの書き込みには“あんなデカいタイヤを履く理由がやっと分かったよ”といった称賛の声があがっていた。でも本作を見た人なら、デカいタイヤを履くもう一つの理由が分かるはずです!