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翻訳の現場から


2020.01.10

風間先生の翻訳コラム

コラム第61回:空は開放されている

空は開放されている

イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり
1月17日(金)全国ロードショー
配給:ギャガ
© 2019 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.


 「博士と彼女のセオリー」のコンビが帰ってくる。フェリシティ・ジョーンズ、エディ・レッドメインが再びタッグを組んだ「イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり」は、1862年、気球飛行で高度記録を樹立したイギリスの気象学者の物語だ。ストーリーは実話に着想を得て、史実に一部フィクションを加えている。
 レッドメイン扮するジェームズ・グレーシャーは実在の人物。彼が高度記録を樹立したのも事実だ。この時に操縦士を務めたのはヘンリー・コックスウェルという男性。これが本作ではジョーンズ扮する女性操縦士、アメリア・レンに脚色されている。アメリアは架空の人物だが、モデルとなったのは女性気球乗りのパイオニアの一人であるソフィー・ブランシャールというフランス人。夫のジャン=ピエール・ブランシャールも気球乗りで、彼女はマダム・ブランシャール(ブランシャール夫人)として知られていた。ちなみに夫はソフィーより先に、飛行中の心臓発作が元で亡くなっている。
 それとは別に、アメリアという名前は初の大西洋単独飛行を成功させたアメリア・イアハートから取ったのだ、などと想像をたくましくしてみるのは映画ファン、歴史ファンに許された楽しみのひとつだろう。
 さて、映画の中でアメリアが大切にしている言葉がある。「空は開放されている」という文句で、本作のキーワードでもある。元はラテン語でもう少し長い。Caelum certe patet,ibimus illi.という。英語訳はSurely(またはAt least) the sky lies open, let us go that way. 本作では「少なくとも空は開放されている。空を行こう」と訳した。これは帝政ローマ時代の詩人、オウィディウスが「変身物語」の中で書いていたダイダロスのセリフだ。
ダイダロスはギリシャ神話に登場する発明家。ある理由でクレタ島の王ミノスによって息子と共に塔へ幽閉される。だがダイダロスは「陸と海とを封鎖することはできようが、少なくとも空だけは開放されている。そこを通って脱出することにしよう」と言った。そして人工の翼を作り、見事息子と一緒に空から脱出に成功する。しかし、ダイダロスは無事にシチリアまでたどりついたが、息子は途中で墜落してしまう――どこかで聞いたことありませんか?実は、息子の名前はイカロスという。太陽に近づきすぎて、翼の蝋が溶けて墜落死してしまうというイカロスのエピソードは有名ですね。
イカロスがテクノロジー批判や人間の傲慢さの象徴として扱われることが多いのに対して、ダイダロスは純粋に翼の発明を称賛し、空への憧れの文脈で出てくることが多いようだ(ただし、イカロスが挑戦者、冒険者、また飛翔の象徴として使われることもあるのは指摘しておく)。実際に彼の名前を冠したものとしては、英国惑星間協会による恒星間無人宇宙船研究のダイダロス計画、マサチューセッツ工科大学が製作した人力飛行機ダイダロス(飛行距離と滞空時間の世界記録を持っている)の他、月のクレーターの名前にもなっている。フィクションの世界でも航空機や宇宙船の名前に使われるなど、なかなかの人気だ。ちなみに英語読みだと“ディーダラス”となるのでご注意を。
本作は画面が非常に美しい。撮影にはIMAXカメラも使われたそうだが、大人の事情でIMAXでの上映は中止になった。実に残念だが、それでも雄大な空の映像は映画館向きだ。実はアマゾン・スタジオの制作なので既に先行配信されているのだが、ここはぜひ大きなスクリーンで鑑賞していただきたい――これはステマではありませんので。それに配信版は僕の翻訳ではありません。その意味でもぜひ映画館でどうぞ!(笑)

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