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翻訳の現場から


2020.11.20

風間先生の翻訳コラム

コラム第71回:思い出せ

思い出せ

 ジョン・レノンの曲で“Remember”(邦題“思い出すんだ”)という曲がある。ジョンの家族や子供時代の思い出――それも概ね苦いものがRemember/思い出せ、と繰り返し歌われる。そして曲の最後はRemember, remember, the fifth of November/思い出せ、思い出せ、11月5日を、と言って爆発音のSEが入って終わる。
 これについては1970年12月のローリング・ストーン誌のインタビュー(後に本としてまとめられ「回想するジョン・レノン」という題で邦訳されている)で本人が解説している。11月5日とは何ですかと質問するインタビュアーに対してジョンは以下のように答える(以下は拙抄訳)。「イギリスの議事堂が爆破された日で、僕らイギリス人は毎年11月5日に松明を持ってお祝いするんだ。あれはアドリブでね。11月5日と言った後でカットして爆発音を加えた。面白いジョークだろ。ガイ・フォークス・デイって知らないかい?」
 このインタビュアーはアメリカ人なので、この行事を知らないのだ。ガイ・フォークス・デイについて簡単に説明しよう。これは火薬陰謀事件の首謀者であるガイ・フォークスのこと。以下「西洋故事物語」より抜粋して引く。火薬陰謀事件とは1605年の秋ジェームズ一世治下のイングランドで発覚した陰謀で、当時政府の厳しい弾圧を受けていたローマ・カトリック教徒たちが上院の地下室に爆薬を仕掛けて、国王をはじめ上下院の議員を一挙に爆死させようとした。結局陰謀は発覚し、主催者であるガイ・フォークス他は全員逮捕、刑死または獄死した。後に政府は布告を出し、11月5日を国家的な感謝の日とすることにし、陰謀首謀者の一人の名を冠してガイ・フォークス・デイと呼ばれるようになった。やがて民衆はガイ・フォークスの像を作って町中を引き回して、夜になってから焼き捨てることをならわしとしている。ちなみに“ナイスガイ”などのガイは、このガイ・フォークスが由来となっている。
 僕は学生時代に上記のインタビューを呼んで、とりあえず納得したが、今ひとつピンと来ていなかった。そして月日は流れ、字幕翻訳の世界に入ってからのこと。「わが目の悪魔」という作品に出会う。1992年度製作で、主演のアンソニー・パーキンスの実質上の遺作とされている。舞台はイギリスで、ガイ・フォークス・デイに事件が起きる。上述のように市民は手作りのガイの人形や松明を持って町を練り歩いているのだが、その時に彼らがある文句を唱えていたのだ。
Remember, remember, the fifth of November
Gunpowder, treason and plot
I see no reason why gunpowder treason should ever be forgot
思い出せ、思い出せ、11月5日を
火薬と陰謀と計画
どうして火薬陰謀を忘れられようか(拙訳)
 人々はこれをリズムに乗せて呪文のごとく、シュプレヒコールのごとく唱えていたのだ。それを聞いて僕はあっと思った。以下は推測で書くのだが、ジョンは“Remember”のエンディングをどうするか決めていなかったのではないか。そして最後のrememberという歌詞を繰り返しているうちにガイ・フォークス・デイの文句を連想しthe fifth of Novemberという言葉を発したのだ。それに引っかけて爆発音のSEを付けてエンディングとしたのだ。長年喉に引っかかっていた骨が取れた思いがした。
 その後の2005年「Vフォー・ヴェンデッタ」という作品が登場、近未来で活躍する主人公はガイ・フォークスの仮面を被り、大画面で上述の文句を唱えるのが聞けるようになった。最後の文句がI know of no reasonとなっているが意味は同じだ。またガイ・フォークスの仮面も「スクリーム」のそれと並んですっかり有名になった。
 ちなみに「わが目の悪魔」は原作がイギリスの推理作家ルース・レンデルだが、当時は劇場公開されずビデオスルー(DVDスルーじゃないですよ。時代が時代ですから!)となり、現在は廃版ではないか。

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