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翻訳の現場から


2021.10.26

風間先生の翻訳コラム

コラム第82回:女王降臨

女王降臨


『リスペクト』
11月5日(金) TOHOシネマズ 日比谷他 全国ロードショー
© 2020 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved

 ソウルの女王、アレサ・フランクリンの生涯を描いた映画「リスペクト」が公開される。主演のジェニファー・ハドソンは、アレサ本人から主役にと指名されたそう。いわばお墨付きの映画ということだ。
 本作については音楽の話、フェミニズムの話、公民権運動の話、教会とセックスの話など書きたい話題はいろいろあるのだが、今回は変化球で、劇中のアレサの髪形に注目していきたい(字幕勉強中の方、「髪型」ではなく「髪形」と書くのが基本ですぞ!)。
 黒人の本来の毛髪がカーリーヘアーなのはご存じだろう。実際、幼いアレサを描く場面ではカーリーになっている。まとめるために三つ編みのようにしたり、頭部に編み込んだりしている。しかし成人になったアレサの髪はストレートだったり、緩いウェーブがかかっている。少なくともカーリーではない。一番特徴的な髪形はビーハイブだろう。これは60年代に流行った髪形で、髪を頭の上でまとめてボリュームを出す。その形が蜂の巣のようなのでビーハイブと呼ばれた。当時の女優や女性コーラスグループがこぞってやっていた髪形だ。本作のポスターのアレサの髪形がこれである。髪質が変わったのだろうか?
 アレサは恐らくウィッグを使っていたのだろう――他の髪形は別の方法を使ったのかもしれないが、ビーハイブはウィッグだと思う。アレサに限らず、60年代当時のモータウンの女性コーラスグループ、つまり黒人女性はほとんどがビーハイブで、そうでない場合でも髪質はストレートだった。男女に限らず、若者がその時の流行の髪形にするのは不思議なことではない。ただ、髪質として無理がある髪形を黒人がするということは別の意味を持つ。純粋に黒人が白人の髪質、髪形に憧れるということもあるだろうが、白人がやる髪形でないといけない――公の場に出るアーティストは白人の髪形であるべきだという無言の圧力が多少なりともあったと言っていいだろう。というより、当時の黒人はまだ圧力と感じていなかったのかもしれない。ただ、ウィッグを被ったり、髪をストレートにするたびに(そういう方法があるのだが今は詳しく書かない)面倒だとは思っていたはずだ。
 一方で1950年代から始まった公民権運動は1960年代に入って大きな盛り上がりを見せる。運動は黒人の意識を徐々に変えていった。そしてマルコムX、キング牧師らが暗殺された1960年代後半から、ブラックパンサー党に代表される急進的で過激な黒人解放運動が台頭してくる。これと機を同じくして“ブラック・イス・ビューティフル”という文化的な運動が起きる。黒人の特徴である肌の色、顔の特徴(広い鼻や厚い唇など)や毛髪は恥じるものではない、むしろ誇るべきものだという考え方だ。この運動は特に毛髪をストレートにすることをやめるよう求め、本来の髪であるアフロヘアーが黒人の誇りの象徴となった。本編の後半ではアレサもアフロで登場する。
 以上を踏まえて、本編でアレサがアフロヘアーにしたタイミングに注意すると、また別の楽しみ方ができると思う。もちろん、重厚なドラマやハドソンの素晴らしい歌声も堪能できます。
*本稿を書くに当たって黒人の髪について調べるといろいろ興味深いことが分かった。これについてはまた回を改めて書きます。

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