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翻訳の現場から


2022.01.14

風間先生の翻訳コラム

コラム第85回:黒人の髪形(男性編)

黒人の髪形(男性編)

 黒人男性は髪形に特に苦労していないと思うかもしれない。しかし1920年代から1960年代まで黒人男性に流行った髪形がある。コンク/conkだ。自家製のリラクサー(前回コラムを参照のこと)でカーリーヘアーをストレートにするのだ。コンク用のリラクサーはcongolene(発音サイトで確認した限りでは“コンゴリン”)と言われる。映画「マルコムX」では冒頭でコンゴリンを作る場面が描かれている。広口瓶にジャガイモの薄切りと水と缶詰のlyeと生卵を入れて混ぜるのだ。lyeとは水酸化ナトリウムのことで、当時はオーブン等の頑固な汚れの掃除や自家製の石鹸を作るために缶詰で売っていた。映画ではRed Devilというブランドだったがこれは実在するメーカーだ。
 コンゴリンは主成分が水酸化ナトリウムだから、塗った後はすぐに水で落とさないと火傷してしまう。「マルコムX」では断水で水が出ず、火傷しかけて仕方なく便器の水に頭を突っ込むという場面がある。当時の女性もリラクサーとしてコンゴリンを使っていたのかどうかは分からなかった。コンクについて調べると男性についての記述しか出てこない。
コンクの維持は大変で、汗などでカーリーに戻るのを防ぐため、寝る時などには髪を布で覆う必要があった。この布のことをドゥーラグ/do-ragまたはduragと言う。ドゥーラグは男女を問わず髪形の維持に昔から使われていたが、近年はラッパーを中心にファッションアイテムとなった。キャップの下にドゥーラグというのは典型的なラッパーのスタイルだ。「マルコムX」でも、自宅で強盗の計画を練る場面でマルコムが被っている姿が見られる。
 コンクは毛が伸びてくると定期的にコンゴリンで処理する必要があった。コンクをするのはポピュラー歌手が多く、代表的な例ではナット・キング・コール、チャック・ベリー、リトル・リチャード、ジェームズ・ブラウンなどがそうだ。「マルコムX」でコンクに関する描写が多いのは、コンクが白人文化に媚びる象徴として使われているからだ。そして刑務所でネーション・オブ・イスラムの教えに感化されるとマルコムはコンクをやめる。
 現実でも1960年代後半、ブラック・パワー運動が隆盛となると、コンクは廃れていく。同運動では黒人本来の髪であるアフロヘアーが黒人の誇りの象徴となったからだ。アフロヘアーは、同じ1960年代に盛り上がったカウンター・カルチャーとも同調する面を持っているという。カウンター・カルチャーの隆盛で白人の若者が反体制の象徴として長髪になった時、黒人はアフロヘアーを選択した。本来がカーリーヘアーである黒人が髪を伸ばせばアフロヘアーになるわけで、非黒人は長髪、黒人はアフロと、両者は同じ反体制の意思だったのだ。
 アフロは長さによってfullとmoderateに分けられる。fullの代表は1968年のアンジェラ・デイヴィスやジミ・ヘンドリックス。moderateは1968年のリチャード・プライヤーやモハメド・アリなど。頭皮から2~4インチ(5~10センチ)ほどの長さ、または頭皮に沿ってカットしている場合――要するに短髪の場合はナチュラルと呼ばれる。これは1969年以前のスティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイの髪形がそう。またナチュラルは黒人男性のビジネスマンがする髪形とみなされ、会社や学校など公の場での一般的な髪形だった。
 これが黒人女性の場合、公の場ではアフロやコーンロウ、ブレイズはふさわしくない髪とされ、ストレートにすることを強要されると言う。小学生でも、公立では黒人の髪質を考えてコーンロウ等を認めても、私立になるとストレートを強制する学校は多いらしい。近年はこれが差別であるとして、きちんとまとめていれば黒人本来の髪質を認める方向に動きつつあると言われている。
 それを象徴するのが軍隊だ。女性兵士は頭髪をまとめることを求められ、バン/bunという後頭部でひとつにまとめる髪形――いわゆるお団子ヘアーが多い。しかし黒人女性は髪質からバンやポニーテールでまとめるのが難しく、ストレートにしてバンにするしかなかった。しかし2017年1月から軍規が変更され、コーンロウやブレイズでバンにすることが認められたという。
 むむ、男性編のはずが、最後は女性の話になってしまった!

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