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翻訳の現場から


2026.09.15

風間先生の翻訳コラム

コラム第141回:鹵獲:訂正

鹵獲:訂正

 第89回で「鹵獲」について書いたが、先日テレビで日中戦争を報じる当時の日本のニュース映像を見た。ナレーションは「弾薬1万発、小銃数百、拳銃、機関銃を鹵獲」と言っている。それはいいのだが、続けて「さらにガソリン、セメントなど(中略)アメリカ、イギリスからの援蒋(蒋介石を援助する、つまり中華民国援助という意味)物資多数を押収しました」と言っているではないか。当時のニュース映像だから言葉遣いは信用できる。ということは武器は鹵獲、物資は押収となるようだ。第89回では「戦場で敵の兵器や軍用品、物資などを奪い取ることを意味する」と書いた――これも調べて書いたのだが「物資」は外さないといけないのか?とすると軍用品はどうだろう。これは改めて調べてみる必要がある。
 そこで「もう一つの陸軍兵器史――知られざる鹵獲兵器と同盟軍の実態」という本を借りてきた。これは第二次大戦、つまり日中戦争から太平洋戦争までの鹵獲について書いた本だ。鹵獲で一番多いのは武器、それも小火器、つまり銃の類いだ。それ以外だと銃剣だけでも鹵獲と言うし、山刀、槍なども含む。そして銃弾、さらに手榴弾、地雷など。それから火砲類、戦車、軍用機、軍艦と大きくなってくる。武器類以外だと軍用車両も鹵獲と言う。これにはトラックやバイク等が含まれる。
 同本では写真のキャプションに「鹵獲した米軍水筒でのどをうるおす日本兵」とあるので軍用装備類も使えるのだろうか。しかしざっと見たかぎり、装備類について鹵獲と出てくるのはこの箇所のみだったと思う。「鹵獲」が妥当かどうかは怪しい気がする。
 ニュース映像ではガソリンやセメントは押収と言っていたわけだが、考えてみるにガソリンやセメントは誰が使っても物そのものは変わらない。だから押収を使う。それに対して武器や車両、装備類は一応○○軍用として作られているから、鹵獲という扱いなのかもしれない。
 それと改めて第89回を見直すと、例に引いた物から軍艦やロボットを想定していたが、兵士が携帯できる小火器類でも「鹵獲」を使うこと、むしろそれが一番多いということを改めて確認した。冷静に考えてみれば軍艦や飛行機などはそうそう奪えるものではないし、第89回でも書いたように、撤退などでやむを得ず置いていく場合は敵に使われないように破壊するのが普通だ。勢い、小火器の類いが多くなるのは当たり前なのだ。
 それと軍艦については「捕獲」と言うことも多い。「鹵獲」が使えないわけではないようで、どちらが正しいのかは不明。ただしこと字幕の場合、軍艦については喜々として「捕獲艦」と使うべきだろう。さらに第89回で「拿捕を使うかも」と書いたが、拿捕は主権の行使として警察や沿岸警備隊などが行うもので、敵の軍艦には使えない。やはり代案は「捕獲」以外にないです。
 ということで改めて、字幕で使用する場合の僕の使い分けを整理しておく。兵器(刀剣類、小火器、重火器等)、戦車、軍用機、軍用車両については「鹵獲」、軍艦のみ「捕獲」、装備類は「接収」か「捕獲」、物資は「押収」を使用することを個人的に提案するものです。ただし「鹵獲」は漢字が難しく、マニア以外は分からない人が多いので、担当者と相談の上「捕獲」への言い換えもあり、というところか。
 ちなみに「鹵獲」使用を担当者に説得する場合の根拠として、朝日新聞の記事を挙げておこう。2022年10月の記事に「鹵獲」が登場する。「ウクライナ、戦車の半数超をロシアから鹵獲か」という見出しで、記事内では「鹵獲(ろかく)(戦場で勝利した部隊が敵から兵器などを獲得すること)」と、読みと説明を加えている…… くそう、字幕はルビは振れるが説明は加えられないからな!

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