TEL
03-5544-8512

休校日:日曜・月曜・祝日


資料請求・
お問い合わせ

MENU

翻訳の現場から


2026.11.04

風間先生の翻訳コラム

コラム第143回:クラークスヴィル行き最終列車に乗って会いに来て:catchとtake(2)

クラークスヴィル行き最終列車に乗って会いに来て:catchとtake(2)

 catch+乗り物はイギリスだと「乗り物に乗る」、アメリカは「乗り物に間に合う」という意味になる。なぜこのような違いが出るのか。以下、調べたことと私見を交えて書くが、恐らく昔は同じで、基本は「乗り物に乗る」という意味だったはずだ。昔の移動手段は英米共に馬や馬車を経て鉄道となる。この時点ではどちらもcatch the trainと言っていた。しかし20世紀に入ってアメリカは車社会となり、日常的な移動手段は車になった。それで、わざわざ乗りに行く列車やバスなどcatch+乗り物は「間に合う」という意味が強くなる。ただしトレイン・ソングの伝統から、ブルースやカントリーに限ってcatch the train=乗る、が残った。列車は放浪、別離、旅立ちなどの象徴、物語の装置となり、音楽や文学の中で生き残った。だからブルース曲でShe caught the Katyと歌われたら、「列車に間に合う」ではなく「列車に乗る」と了解されるのだ。
 では普通に「列車に乗る」という場合、アメリカでは何と言うか。大抵はtakeかgetを使う。これで思い出したのがモンキーズのデビュー曲Last Train to Clarksville、邦題「恋の終列車」だ。歌詞はTake the last train to Clarksvilleと始まる。主人公の男性は電話で恋人に「クラークスヴィル行き最終列車に乗って会いに来てくれ。明日の朝には僕は旅立つ。もう帰れないかもしれない」と歌う。作者であるソングライターチーム、ボイス&ハートはアメリカ人だからtakeを使ったのだ。これがイギリス人だったらCatch the last train to~と歌っていた可能性は大ではないか。
 作者の一人、ボビー・ハートは、列車の終点である町の名をいくつか考え、一番語呂が合うクラークスヴィルを選んだと語っている。その後、この町に陸軍基地、フォート・キャンベルがあると知り、歌詞の物語にぴったりだと考えたらしい。作曲当時は1966年、ベトナム戦争の真っ最中だ。つまり主人公は出征直前に、彼女に会いに来てくれと頼んでいるのだ。
 ハートによると、モンキーズというアイドルグループにストレートなプロテスト・ソングは書けないので、巧妙に歌詞に忍び込ませたとのこと。確かに歌詞にはクラークスヴィルという町の名以外に、直接的に戦争を示す言葉は一切使われていない。
 話を戻すがアメリカではtake the last trainと歌うと、日常的に乗る、つまり旅に出るといったポップス的な軽さが出る。これが仮にcatch the last trainと歌われたら、途端にブルース/カントリー的な逃避行、別離の雰囲気を感じるというわけだ。
 ではイギリスのcatch+乗り物に「間に合う」というニュアンスはまったくないのか。実はないことはない。イギリスの移動手段は公共交通が中心だから時刻表がある。だからその時刻に「間に合う」=「乗る」となり、ニュアンスを残しながらほぼ「乗る」の意味になる。それに対してアメリカは車が普通だから、catch the train、catch the busと言うと「列車に間に合う」「バスに間に合う」という意味になる。と言うよりcatchの基本的な意味は英米共に「間に合って乗る」ということなのだが、日常的な移動手段の違いから、国によってどちらかのニュアンスが強く出ると考えた方がより正しい。
 面白いのは飛行機の場合だ。飛行機は列車やバス以上に、フライト時刻に間に合わないと絶対に乗れない。搭乗前の手続きも時間がかかる。だからアメリカでもイギリスでもcatch the flightと言い、意味は「飛行機に乗る」となるのだ。ここでtakeを使ってtake the flight to New Yorkと言うと、(船でなく)飛行機でニューヨークに行ったと、どの交通手段を使ったかが焦点となる。
 ではイギリスで「間に合う」と伝えたい場合――これはビートルズの“ア・デイ・イン・ザ・ライフ”を思い出せばいい。ミドル部分でポールはmade the bus in seconds flat/ギリギリでバスに間に合ったと歌っている。つまりmake the busでいい。ただしこの場合は間に合ったことが強調されるので、ギリギリ間に合ったといった時間が焦点となってくる。

アーカイブ

ランキング

一覧に戻る

資料請求・お問い合わせ CONTACT

当サイトをご覧いただきありがとうございます。当校の映像翻訳講座に関するお問い合わせ、資料のご請求は下記のメールフォームより受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

資料請求・お問い合わせ

資料請求
お問い合わせ