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翻訳の現場から


2023.09.29

風間先生の翻訳コラム

コラム第106回:有罪です

有罪です


『イコライザー THE FINAL』
10月6日(金)全国の映画館で公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

 デンゼル・ワシントン初のシリーズである「イコライザー」が3作目にして最終章を迎える。「イコライザー THE FINAL」だ。最後の舞台はイタリアである。ある理由で訪れた南イタリアの田舎町で、住民の優しさに触れたワシントン扮するマッコールは、ここを安住の地と決めるのだが…
 今回は劇中に登場するカラビニエリの話を書こうと思い、原稿も完成していたのだが、思い立って別の話に変えた。それはguilty as chargedというイディオムだ。ネタバレにはならないはずだが、後半で僕の妄想=感想を書く。白紙状態で作品に臨みたい方は鑑賞後にどうぞ。
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この表現に初めて遭ったのはずいぶん前の「イコライザー」とは関係ない作品だ。悪党が主人公を拘束して殺さんとしている。こういう場面の常で、優位に立った人間は得意げに余計な話を滔々とするもの。この悪党も例に漏れず、いろいろ無駄口をたたいている。そんな中で「俺はヘビメタのファンだ」と言い出した後で、Guilty as chargedと言う。普通に訳せば「告発どおり有罪」となるはずだ。そこで僕は最初、無駄口がここで終わり、「お前は有罪だ」→「殺してやる」という意味だと解釈した。しかし何か腑に落ちない。何か唐突だし、そもそも「お前は有罪」ならYou are guilty as chargedなどとなるはずでは?もしやと思い、一応スラングを調べてみると「認める」「お前の言うとおりだ」という意味だと分かった。
 例えば、用意していた料理がつまみ食いされた。口の周りに食べかすがついている男をつかまえて「お前が食べたんじゃないか?」と問い詰めると、相手はGuilty as charged!=そのとおり、バレた?という感じらしい。つまり「あなたの告発どおり(この場合は「つまみ食いしたんじゃないか?」という告発)私は有罪です→私がやりました→認めます、ということなのだ。
 だから上記の作品での意味は「俺はヘビメタのファンだとも。ああ、認めるよ」という意味になる。軽口は続いていたわけだ。
 と、ここまで引っ張ってきたguilty as chargedだが「イコライザー」シリーズではこのフレーズが何度か出る。1,2ともに出てくる。口にするのは主人公のマッコールだ。相手に何かを指摘されるとGuilty as chargedと言う。単にGuiltyだけの時もある。いずれも「当たり(だ)」と訳した。例えば「(あんた)アメリカ人?」「当たりだ」という具合である。別に本筋には関わらない。
 さて、以下は僕の妄想だ。マッコールというのは、いわば必殺仕事人のような男だ。市井の人間に不正や悪がなされているのを知った時、それを見過ごせずに成敗する。だから視聴者は見ていて胸がすく思いがし、喝采を送るわけだ。しかし彼の行動は正当化できるだろうか。成敗した相手はほぼ全員が死んでいる。もちろん犯した罪が死罪に値するという相手を殺しているように見えるが、それは果たして許されるのか?その過程で彼は暴走していないか?
 さらに言えば昔のCIA時代にも、任務とはいえマッコールは相当数の人間を殺しているはずだ。それは誰より本人が自覚している。だから日常会話のguilty as charged/当たりだ、というイディオムを口にしながら、これまでの行いを振り返り、自分は罪を犯してきた=有罪だという思いを込めているのではないだろうか。
 実は「THE FINAL」にguilty as chargedというフレーズは出てこない。ただ、似たフレーズをマッコールは口にする。Toucheだ。元はフェンシングの用語、つまりフランス語で「一本あり」という意味。そこから一本取られた、やられた、参った、痛いところを突かれたな、といった意味になる。
 そしてさらに妄想は続くのだが、今回のマッコールは、自分が有罪であるという思いを超えて、誰かに一本突かれてしまったと感じているのだとしたら?その誰かとは自分の良心?神?――そんなことも考えてしまう「THE FINAL」なのです。もちろん、ただのイディオムを使っただけで、脚本家や監督にそんな意図はまったくない可能性は大だ。ただ深読みするのは視聴者の特権ですからね。

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