ダイヤモンドは傷つかない
現在公開中の「ヴィジット」はあのシャマラン監督久々のオリジナル脚本作品だ。共同製作に関わったのは「パラノーマル・アクティビティ」で知られるブラムハウス・プロダクション。だからというわけではないだろうが主人公の女の子は映画監督志望で、祖父母の家への訪問を記録映画にするという設定。全編が手持ちカメラで撮影されている。
もう一人の主人公、女の子の弟は白人なのだがラッパーに憧れている。ラップと言えばライム=韻を踏むというのは今や周知だろう。ラップに限らず英語の歌はライムするのが基本だ。例えば最初のラインがmakeで終わると次のラインはtakeで終わるように歌詞を作る。「メイク」と「テイク」で単語の後半の発音をそろえる。ライムしつつ歌詞の内容もまとめるのが作者の腕の見せ所というわけだ。
だが、これを訳すとなると非常に面倒だ。何とか韻を踏むよう頑張ったが、内容を訳すだけで諦めた箇所も多々。これは劇場で見てご笑納ください。 それから、この弟君のセリフもヒップホップ色が出ている。まず彼の名はタイラーだが、ラップをする時はT・ダイヤモンドと名乗る。実は本当はT-Diamond Stylusと言っている。直訳すれば「Tダイヤモンド針」。ダイヤモンド針といえばレコード針のこと(レコード針って分かります?)。それに光り物のダイヤが係っているのだろう。文字数の関係もあり訳出できなかったのは残念だが、この辺りが字幕のつらいところだ 。
あとはランダムにいかにもという言葉を拾ってみよう。
・swerve:予告編でこれを言うシーンが出てくるが、本来は「逸れる」「外れる」という意味。カニエ・ウェストが"Mercy"という曲で使ってから「失せろ」という意味になったらしい。
・pound:「叩く」という意味だが、拳と拳を合わせる挨拶のこと。挨拶自体はfist bumpという言い方が一番ポピュラーだが、fist poundと言ったりpound itと言ったりもする。
・chrome:金属のクロムのことだが、そこから転じて拳銃の意味になる。ラッパーが使う黒人英語は、このように連想ゲーム的に意味が変わる場合があり、感心させられることも多い。
劇中ではそれぞれ微調整して訳した。どんな状況で、どんな字幕になったかは……よろしければ本編でどうぞ。