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翻訳の現場から


2024.06.11

風間先生の翻訳コラム

コラム第114回:チャンネル7

チャンネル7

  ある作品を翻訳したところ、再編集版が出ることになり、新たに巻頭と巻末にテロップが付いた。追加で翻訳依頼が来たのだが、問題は巻頭のテロップだ。といっても英文自体はまったく難しくない。「本作は元々イギリスで1980年にチャンネル7用に制作されたものである」といったことが書いてある。本来はテレビ映画用に作られたのかと納得しそうになった。だが待てよ、新作として依頼を受けたはずだぞ?!
 慌ててIMDBで作品情報を確認するが、やはり新作だ。Triviaのコーナーに「実は元はテレビ映画だった」と書いてあるかと読んでみるが、そのような記述は一切ない。まさか英文解釈を間違えたかとテロップの英文を丁寧に読み直すが、そもそもが単純な英文だ。やはり上記のような意味にしか取れない。ならばチャンネル7のHPだ。放送局ならHPはあるだろうし、過去作の情報も載っているかもしれない。そう思って捜すがなぜか見つからない。こうなったら最初の解釈どおりに訳して放り出すか。……そこでふと思った。もしやチャンネル7というテレビ局は存在しないのではないか?
 そこでイギリスのテレビ事情を調べてみるとやはりそうだった。現在は日本でもそうだが、衛星放送やケーブルテレビ、インターネットテレビなどの多チャンネル時代だ。だから以下はそれ以前の話、日本で言う地上波の無料放送局の話と思っていただきたい。
まずイギリスといえばBBC、英国放送協会である。1936年にテレビ放送を開始した世界最古のテレビチャンネルだ。BBCはBBC1とBBC2の2局がある。1がNHKの総合テレビジョン、2がEテレと思えばいい。これに民間局のITVが1955年に参入する。法律的にはチャンネル3という扱いだ。続いて国有だが公的資金を受けない独立採算のチャンネル4が1982年に放送開始。さらに民間局のチャンネル5が1997年に開局する……
 もうこのぐらいでいいだろう。テロップにあった1980年にイギリスではBBC1、2、ITVの3局しかなかった。チャンネル4ですら2年後だ。チャンネル7という局は存在しないのだ。ちなみに現在の多チャンネル時代でも、イギリスにチャンネル7という局は存在しない!
 ということで巻頭テロップのチャンネル7やオリジナルがテレビ映画という記述はすべてジョークだったのだ。制作陣が裏で舌を出している姿が浮かぶ。イギリス人ならすぐに気づくのだろうが、日本人の僕はここまで確認しないと分からなかった。そして一旦ジョークだと気がつくと、他のことも見えてくる。詳しくは書かないが、作品の監督の生年月日から計算すると、制作当時は小学生ということになる。監督などできるはずがない。
 それにしても思うのは日本のテレビ局の多さだ。地上波だけで7局もある。しかも一番後発のテレビ東京で、前身局の開局が1964年だ。その当時のイギリスは3局。あのアメリカでさえNBC、ABC、CBSの3大ネットワーク時代が長かった。4つ目のフォックス・テレビの設立が1986年である――もちろんアメリカは早くから有料ケーブルテレビが始まり、チャンネル数は多かった。だが局の多さとよい番組の数はまた別の話だ。
 さらに近年はテレビ離れが進んでいるという。僕の知人も最近はテレビよりももっぱらYouTubeを見ていると言う。途中で入るCMが鬱陶しいのでプレミアム会員になったのだとか。テレビの未来も厳しいようだ。


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