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翻訳の現場から


2024.07.09

風間先生の翻訳コラム

コラム第115回:言葉狩り

言葉狩り

 三浦しをんの小説「舟を編む」は辞書編纂者の物語。映画やアニメにもなり、今年NHKでドラマ化もされた。その番宣を兼ねてだろう。放送直前に「プロフェッショナル」で辞書編集者を取り上げた回の再放送をやっていた。その編纂者は新たな言葉に会うとメモしたり写メしたりする。ある時、たまたま乗った電車の窓から、工場の建物に掲げられた「整正美化」という言葉をメモし、後で意味をネットで調べようとしたところ見つからない。彼は再びその電車に乗り、工場の場所に当たりをつけると、途中下車して工場を訪ね、従業員に意味を聞いていた。驚くべき行動力と言葉への執念だ。
 そこまでではないが、僕も新聞やネット、テレビなどで気になる言葉を見たり聞くとメモしたり、知らない言葉なら調べたりする。先日も新聞で“専門店が相次ぎ閉店 「踊り場」に来たガチ中華”という見出しの記事を見た(記憶で書いているので実際は少し違うかも)。
 まず“ガチ中華”という言葉がいい。日本人向けにアレンジしていない本場の料理を出す店のことだ。ならば“本格中華”でいいのかと言うと、本格中華だと本場寄りだが、それでも日本人向け、つまり少しはアレンジしてあるという感じがある。ガチ中華は日本人向けでないというより、中華圏の人用の店/料理だと思えばいいだろうか。
 それよりも“踊り場”である。初見では「踊る中国料理か?」とバカなことも一瞬思ったが、そんなわけはない。記事を読んでいくと、ブームだったガチ中華が“停滞期に入った”という意味で使っているのはすぐ了解される。調べてみると「経済活動や株価が好調を続ける局面で、上昇ペースが一時的に鈍化して停滞状態に陥ること」らしい。株価の推移をグラフにした時、上昇期は右肩上がりの線を描くが、停滞状態になると水平になる。その水平の部分を階段の踊り場にたとえたのだろう。
 興味深かったのは、見出しでは「踊り場」とカッコ付けだが、本文ではカッコが付いていない。つまり一般的な踊り場の意味とは違う意味で使っているんですよと注意するために付けたのだろう。本文中でも踊り場という言葉は出てくるが、そこにはカッコがなかった。本文は文脈で推測可能だが、見出しは前後に説明がないから、誤解する人もいると考えて付けたのかもしれない。
 一応,国語辞典で“踊り場”を引くと①踊りを踊る場所 ②階段の途中のやや広い平らな所 ③経済用語、以下上記の説明 となっている。僕が初見で「踊る中国料理か?」と思ったのも故なきことではないのです。ちなみに②の意味の由来は諸説あるが、そのひとつにこういうものがある。明治時代になって、西洋建築の階段を下りてくる女性が、途中の平らな場所で止まってポーズをした時、ドレス下の膨らんだ部分が揺れ、踊っているように見えたからというもの。昔の日本の家屋は平屋が普通だったから②の意味ができたのは明治以降、比較的新しいというのは間違いないらしい。
 一度こうして気にすると、その後も「踊り場」という言葉が目に付くようになる。過日も、主力商品であるiPhoneがAI搭載に乗り遅れたため、アップルは「最近は成長が踊り場を迎えている」という記事を見つけた。以前ならスルーしていただろう。
 ということで今回のタイトルは差別用語の話ではないのだが、あえて寄せるなら、本文中の「中国料理」という言葉。字幕で「中華料理」と書くと「中国料理」と訂正される。理由は定かではないのだが、今回は迎合したわけではない。「中華料理」というのは日本人向けにアレンジされた料理のことを言い、中華圏の人が食べるものは「中国料理」と言うのだそうだ。それで言えば「ガチ中華」は「中国料理」ということになりますね。

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