TEL
03-5544-8512

休校日:日曜・月曜・祝日


資料請求
お問い合わせ

MENU

翻訳の現場から


2025.01.21

風間先生の翻訳コラム

コラム第121回:トぶくすり

トぶくすり

 昨年12月にシリアのアサド政権があっという間に崩壊したのは驚いた。しかし、これには世界情勢が大きく関わっていたのだ。具体的にはイスラエルのガザ侵攻とウクライナ戦争だ。2011年のアラブの春で民主主義運動がシリアにも達し、反政権デモが始まると、当然のごとくアメリカは反体制派を支援する。アメリカに対抗する形でロシア、イラン、ヒズボラがアサド政権を支援した。しかしロシアはウクライナ戦争、イランとヒズボラはガザ侵攻によりイスラエルと対決。これによってロシア、イラン、ヒズボラともに疲弊し、アサド政権を支えられなくなった。その間隙を縫って反体制派がアサド政権を崩壊させたのだ。はい、ここ試験に出ますよ――というかアクションやドラマの背景にこのような流れがあることが多い。一応抑えておきたいところだ。
 さて、アサド政権崩壊後の年末、朝日新聞に、政権の資金源となっていた麻薬工場の様子が公開されていた。作っていたのは商品名カプタゴンという錠剤。どこかで聞いたことがあると記憶をさぐっていたら「イコライザー THE FINAL」に出てきたのを思い出した。主人公が別件で訪ねたブドウ園で大量の錠剤を見つけるのだ。後に捜査機関がやって来て薬物を調べ「塩酸フェネチリン。ISの戦闘員が使ってます」と言う。
 本編に商品名のカプタゴンは出てこなかったが、カプタゴンの生分はフェネチリン/Fenethyllineである。Fenethylline hydrochlorideとも言うので、塩酸フェネチリン、フェネチリン塩酸塩、塩酸フェチチリンと訳されることもある。元々はアンフェタミンの代替薬としてドイツで開発され、小児多動症やナルコレプシー、鬱病などの治療に用いられた。フェネチリンは投与されると生体の代謝作用を受けてアンフェタミンに変化する。アンフェタミンとは覚醒剤の成分となる物質だ。そのため欧米では現在禁止薬物となっている。といっても欧米ではあまり乱用されていない。
 ところがアラブ諸国、特にサウジアラビアでは乱用が問題となっているのだ。
商品名カプタゴンにちなんで、錠剤にはロゴであるCが2つ重なったマークが刻まれており、ここからアラブ世界では「アブ・ヒラライン(2つの三日月の父親の意)と呼ばれている。特別な原料は必要なく、安価で製造できるため、アサド政権が資金源として大量に製造しており、シリア産は世界シェアの8割を占めるとされている。
 朝日新聞の記事には、人のいない工場の机に大量にぶちまかれたカプタゴンの写真があった。見出しで「貧者のコカイン」と紹介し、本文では「合成麻薬」としていたが、生分を考えれば覚醒剤の方が近いと思う。それもあって「イコライザー」では「代替覚醒剤」と訳した。
 今回のフェネチリン(カプタゴン)もそうだが、薬が本来の使われ方から逸脱し、ドラッグとして使われている例は多い。近年では麻薬や覚醒剤の類いより、いわゆる処方箋薬――鎮痛剤や向精神薬などの乱用が問題となっている。
 鎮痛剤の場合、ケシからアヘン、アヘンからモルヒネ、モルヒネからヘロインと、それぞれ鎮痛作用のある物質が開発されてきたわけだが、ヘロインに変わるものとして開発されたのがオピオイドである。これはオピウム(アヘン)類縁物質という意味。オピオイド薬は弱い順にコデイン、バイコディン、オキシコドンの3種がある。いずれも処方箋があれば簡単に入手できる。特にオキシコドン(商標オキシコンチン)が後に大量の中毒者を出し「オピオイド危機」と言われた。
 オピオイド系でオキシコドンよりさらに強力なのがフェンタニル。プリンスやトム・ペティがフェンタニルの過剰摂取で亡くなっている。プリンスは股関節の痛み、トムは腰痛を煩っており、その痛み止めとして鎮痛剤を使っていた。
 こういう仕事をしているとドラッグの話はよく出てくる。暇な時にドラッグを体系的に整理しておくと理解が深まると思います。ただし、くれぐれも手を出さないように!
(今回はあまり愉快な話題ではないので、写真だけはポップなものを選びました)

アーカイブ

ランキング

最新記事

一覧に戻る

資料請求・お問い合わせ CONTACT

当サイトをご覧いただきありがとうございます。当校の映像翻訳講座に関するお問い合わせ、資料のご請求は下記のメールフォームより受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

資料請求・お問い合わせ

資料請求
お問い合わせ