ロケット・サイエンティスト
話題の映画「オデッセイ」は、火星に取り残された宇宙飛行士が、科学を武器に生き残るというSF大作だ。主人公は絶望的な状況にも関わらず、決して諦めない。これは「アポロ13」でも描かれていたが、どうやら宇宙飛行士に必須の資質らしい。危機に瀕してパニックを起こすような人間は最初から宇宙飛行士に選ばれないのだ。だが、それを差し引いても今回の主人公は驚くべきほど明るく前向きで、常にユーモアを忘れない。
宇宙と言えば、1990年代の中頃ぐらいからrocket scientistという言葉を頻繁に目にするようになった。「彼はrocket scientistのように切れる」などと、頭のいい人間の形容として使われるケースがほとんど。ロケット科学者だから賢いのは納得だが、なぜロケットなのかと不思議に思ったものだ。後にリーマンショックに始まる金融破綻の解説で、この言葉が出てきて納得した。実は1990年代、東西冷戦が終結したことで、NASAや軍需産業が抱えていた大量のロケット科学者が職にあぶれてしまったのだ。その彼らが向かった先がウォール街だったという。デリバティブに代表される複雑な金融商品の開発に、彼らの数学的知識が利用されたのだ。ロケット科学者というと、ロケットを作る工学分野と思いがちだが、実際はロケットの軌道計算をする数学者などのことを指したらしい。それをロケット関係の理数系という大雑把なくくりでrocket scientistと呼んだらしいのだ。
「オデッセイ」でも主人公を助けるために宇宙船の軌道を計算する力学課の学者が出てくる。例えば地球から火星に行く場合、地球も火星も動き続けているわけで、出発時と到着時では位置が違う。加えて、宇宙船は途中で燃料補給ができないから、最初に積んだ燃料で往復できるよう、細かい燃料の使用やコース変更をあらかじめ決めておかなくてはならない。また燃料節約のため、火星に近づいたら、火星の重力を利用して宇宙船の方向やスピードを変えるということもやる――これを重力アシストとかスイングバイと言う。これも軌道が近すぎれば火星に衝突してしまうし、遠ければ重力を有効に使えない。微妙なコース計算が必要となる。だから「オデッセイ」では力学課の学者が、自分が計算したコースをスパコンで検算するシーンが出てくる。スパコンで検算するほど複雑な計算というわけだ。
さて、世紀のサバイバル&救出劇は果たして成功するのか。それは本編を見ていただくとして、それにしても本作といい「プライベート・ライアン」「インターステラー」など、マット・デイモンは本当に"取り残される"人だなあ!