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翻訳の現場から


2025.12.17

風間先生の翻訳コラム

コラム第132回:ワールドシリーズのポスター

ワールドシリーズのポスター

 今年のMLBワールドシリーズ、ドジャース対ブルージェイズは大熱戦だった。優勝したドジャースはもちろんだが、ブルージェイズも本当に強かった。さて、今回のシリーズでは気になる言葉がいくつか出てきたので書いてみたい。

 ブルージェイズの本拠地では大谷翔平へのブーイングがどこよりもすごいのは有名だ。彼がエンゼルスから移籍する際、一時期ブルージェイズ入団の可能性が一番だと報じられたために、ファンは裏切られたという思いが強い。今年のワールドシリーズでは、大谷が登場すると観客が“We don’t need you”の大合唱を始めた。本コラム第125回で「シンシン」からチャントの話を書いたが、この大合唱もチャントと報道されていた。これはサッカー界のチャント、いわゆる応援歌とは違い、本来のチャントと言える。

 シリーズ最終第7戦、同点の9回裏、ドジャースは2死満塁の大ピンチとなる。迎えたバッターの打球は左中間へ飛び、レフトのキケ・ヘルナンデスとセンターのパヘスが打球を追う。2人は衝突してキケは倒れ込むものの、パヘスが打球をキャッチ。サヨナラ負けは阻止され、試合は延長へ突入した。
 On Base with Mookie Betts(ドジャースのスター、ムーキー・ベッツがホストを務め、MLB選手にインタビューするポッドキャスト番組)に、優勝パレードを終えたチームメイトが出演した際、キケは9回裏の衝突について次のように回想している。以下拙訳で載せる。
 「全速力で走ったよ。ワールドシリーズがかかってるんだ。何としても捕らなきゃ。フェンスをブチ破らなきゃいけないならブチ破ってやるって気でね。そしたらこいつは捕れるぞって感じになったんで、俺はスピードを落としてウィリー・メイズばりのキャッチ(Willie Mays catch)を決めてやろうと思ったんだ。そしたら突然posterizeされたってわけさ」
 ウィリー・メイズはMLB往年の名選手。1954年のワールドシリーズで、敵の選手が打った大飛球を振り向くことなく背走で追い、見事にキャッチした。このプレーはシリーズの流れを決め、“ザ・キャッチ”として有名になった。キケはそれの再現を頭に描いていたのだ。
 最後のposterizeというのはとても面白い言い方だ。ランダムハウスには載っていなかったが、英辞郎には記載があった。「(競争相手・敵などに)恥ずかしい思いをさせる、屈辱を与える」という意味である。語源も載っていたが、バスケットボールの試合で、ある選手が敵のディフェンスをかいくぐってダンクシュートを決めるなど、素晴らしいプレーをした時、その写真がポスター化され、対戦相手に屈辱を与えたことから来ている。スポーツに限らず、ビジネスでも用いられる表現だとか。poster/ポスターからposterize/ポスター化とした造語ということだ。
 キケは、ザ・キャッチを再現できると思った矢先、チームメイトのパヘスに捕球を横取りされ、地面に倒れ込み、大恥をかかされたと冗談交じりで語ったのだ。彼はジミー・キンメル・ライブ!(少し前に放送休止が話題になった)に出演した際には、同じ場面のことを「(前略)そしたら突然NBA選手の気分を味わった。なぜってチームメイトに赤っ恥をかかされた/posterizedからさ」と語っている。出し抜かれたディフェンスの気分になったということですね。

 上記のベッツの番組では、キケが赤っ恥をかかされたと言うと、ベッツがこう被せる。「パヘスが突っ込んできて、こいつをランディ・モスしたんだ(Randy Mossed)」
 ランディ・モスとはNFLの5チームで活躍したアメリカンフットボールの名選手で、ポジションはワイドレシーバ。数々のタッチダウン・レシーブを決めたことで知られている。そのすごさから何とRandy MossまたはMossが動詞として使われているのだ。定義は「ディフェンダーが屈辱を感じるような驚愕のパスキャッチをすること」となる。パヘスがキケの面目を潰すような見事な捕球をした、ということである。

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