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翻訳の現場から


2016.05.17

風間先生の翻訳コラム

コラム第17回:この札は使えません

この札は使えません

「アウトバーン」
6月10日(金)より、
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ、TOHOシネマズ 新 宿 ほか全国ロードショー!
配給:アスミック・エース
(C)2015 IM GLOBAL FILM FUND, LLC ALL RIGHTS RESERVED


来月公開の「アウトバーン」は、ドイツを舞台に、犯罪組織に追われることとなったアメリカ人の主人公が、高級車を乗り回して高速道路を疾走するというカーアクション満載の映画だ。

さて、例によって話は脱線していくのだが、劇中で主人公がガス欠になり、スタンドに駆け込む。だが持ち合わせは500ユーロ札だけ。これで頼むと言うと、店主は無言で注意書きを指す。そこには"警備上の理由で500ユーロ札は受け取りません"の文字。高額紙幣は偽札の可能性があるので受け取り拒否ということだ。ところで500ユーロは日本円でいくらぐらいなのか。これは簡単。グーグルで"500ユーロ"と入れるだけで日本円に換算してくれる。それによれば6万3000円前後、かなりの高額だ。確かにおいそれとは使えないな。

ふと下に出ている他の検索結果に目をやると、面白そうなページがあった。「ベルリン通信」というベルリン在住の日本人の体験記だ。そこに、スーパーのレジで、前に並んだおじさんが500ユーロ札で支払いをした時の目撃談が載っていた。

まず、体験者は500ユーロ札を初めて目にしたという記述がある。日常的に流通していない札なのだ。札を受け取ったレジのお姉さんは、まず偽札か調べる機械に札をすかし、次に隣のレジのおばさんに同じように確認するよう頼む。おばさんがうなずき札を戻すと、お姉さんは釣り銭に相当する大量の札を数え、再びおばさんに釣りの金額を確認するよう頼む。おばさんが確認した後、お姉さんはおじさんに数えながら釣りを渡す。これで終了かと思いきや、お姉さんは電話を取って、本部らしき所に500ユーロ札が入ったことを報告。そして札を袋に入れてしまい、やっと体験者のレジ精算の番となった。この間、時間にして5分ほど、レジ作業は完全に中断されたままだったそうだ。

しかし、これは受け取ってもらったからまだいい方で、500ユーロ札はヨーロッパ中で断られることが多いらしい。例外的にドイツでは高額の買い物に500ユーロ札が使われるという。また、高額が故に蓄財用として犯罪者が利用するため、500ユーロ札廃止の動きもあるという。何でもスペインでは昔、この札をビンラディンと呼んでいたそうな。存在は知っているが、見た者は誰もいないというジョークらしい。

高額紙幣といえばアメリカの100ドル札も使えないという話をよく聞く。実際には使えないことはないらしいが、"50ドル札、100ドル札お断り"というサインを出している店はままあるようだ。でも、こちらは換算すれば1万円前後。要は1万円札でしょ。500ユーロ札と比べたら、それほど使い勝手が悪いとは思えない。偽札防止もあるだろうが、釣りを用意するのが面倒なんじゃないか。カード社会という事情を差し引いても、買い物客に優しくない気がする。

日本だと1万円札で断られることはまずない。"お釣りが細かくなりますが"と言われるくらいだ。普通の店が、高額紙幣を出されることを考えてきちんと釣りを用意しおく――こんな当たり前のことが、日本が誇れる"おもてなし"なんじゃないでしょうか。

追記:5月4日付で欧州中央銀行は500ユーロ紙幣の廃止を決めた。テロや犯罪の資金源を絶つ狙いなのだそう。2018年末で発行を停止するが、その後も無期限で法定通貨として使用はできるそうだ。500ユーロ札を拝みたい人は「アウトバーン」に急げ!(笑)

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