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翻訳の現場から


2017.10.01

風間先生の翻訳コラム

コラム第34回:質問:教皇と法王、どちらが正しいですか?

質問:教皇と法王、どちらが正しいですか?

10月6日レンタル開始
10月27日発売
発売・販売:KADOKAWA

今春放送された話題のミニシリーズ「ヤング・ポープ 美しき異端児」がDVD化される。ジュード・ロウが初のアメリカ人教皇に扮するのだが、彼の型破りな行動が実に痛快な物語だ。回が進むに連れて、彼の苦悩や意図が見えてきて話がさらに面白くなる。僕は数人と手分けして吹替を担当したのだが、やっていてとても楽しい作品だった。

原題と邦題にあるPope/ポープとは教皇のことだ。教皇、ローマ教皇などと言う。今「教皇」と書いたが、「法王」「ローマ法王」という言い方も耳にするはず。むしろ、こちらの方が耳になじみがあるのでは?困ったぞ、どちらを使えばいいんだろう。

マスコミでは「法王」の方が多いようだ。しかし日本カトリック中央協議会では「教皇」が正しいとしている。以前、日本では法王と教皇が混用されていたそうで、1981年のヨハネ・パウロ2世の来日を機に「ローマ教皇」に統一することとした。世俗の君主のイメージが強い「王」という字よりも、「教える」という字の方が教皇の職務をよく表すからというのが理由だそうだ。

しかしマスコミでは依然「法王」の使用が多い。だから「法王」の方をよく耳にするのだ。翻訳の立場で言うなら、一般の会話で出てくる場合は「法王」と訳して構わないだろう。ただし、カトリック教会の人間が話す場合は「教皇」とするべきだ。ということで「ヤング・ポープ」でも呼称は「教皇」を使っている。

かつて教皇は自分の領地、教皇領を持ち、事実上の国家として領地内で行政権を持っていた。だが19世紀イタリアの統一運動の中で教皇領をすべて失い、イタリア王国と対立する。だが1929年、ラテラノ条約を結び、教皇のいるバチカンを国際法上の主権国家として認め、教皇領没収への補償として資金調達を行う等の条件の下、イタリア王国と和解した。これによって生まれたのが世界一小さい国として有名なバチカン市国だ。国と言っても、国民は教会関係者だけである。

バチカン市国を実質動かしているのはローマ教皇庁だ。教皇の下、全世界のカトリック教会を統率している。教皇庁の中心的組織は国務省。そのトップは国務長官と呼ばれる。他にも各省庁が存在し、組織も国を模しているように思われる。しかし国務省の英語訳はSecretariat of State。直訳すれば「国務事務局」という感じだろうか。これ以外に9つの省庁があるのだが、英語ではCongregation for~となる。congregationとは会議という意味だ。日本語の定訳と英語の語感に差があることは押さえておいた方がいいだろう。

バチカン市国の大使館は日本にもあるが「ローマ法王庁大使館」と呼ばれている。ローマ法王庁?教皇庁じゃないの?――これには理由がある。上述のような経緯で、カトリック中央教義会は「ローマ教皇庁大使館」に名称を変更するよう動いた。だが日本政府から、各国公館の名称変更はクーデターなどによる国名変更時など特別な場合を除いて認められないと言われたらしい。だから今も「ローマ法王庁大使館」のままなのだ。大使館は旗も立っておらず、高級住宅街の一画にひっそりとたたずんでいる。

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