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翻訳の現場から


2017.11.01

風間先生の翻訳コラム

コラム第35回:フィーリン・グルーヴィー

フィーリン・グルーヴィー

先日翻訳した作品はニューヨークが舞台。現在地を伝える無線で59th street bridgeにいると連絡してきた。通りの名が橋に付いているらしい。地名などは表記を確認すると同時に、実在するかも調べるのが常。こういう時のために僕はJALのシティ・ガイド・マップというのを用意している。今はGoogleでも地図検索ができるが、例えば犯人の逃走ルートの確認などは紙の地図の方が楽だ。それ以上にGoogleの地図は日本語表記がいい加減なので困る。英語で地名の存在は確認できても、表記は信用できない。

話が脱線してしまった。59th street bridgeである。場所の見当をつけて地図を眺めるが見つからない。かわりにあったのはクイーンズボロ橋。試しにクイーンズボロ橋を調べてみると、実はこれが正解だった。クイーンズボロ橋はニューヨークのイースト・リバーにかかる橋で、橋のマンハッタン川が59丁目と60丁目の間に位置するため、別名59丁目橋/59th street bridgeと言うのだそうだ。この後で実物が画面に出てきたが、見覚えがある。ニューヨークと言えばこの橋というくらい、映画やテレビでお馴染みの橋ではないか。

納得したところで原語の59th street bridgeというのを眺めていたら、何か見覚えがある気がしてきた。そう、サイモン&ガーファンクルだ!彼らの曲で“59番街橋の歌”というのがあるのだ。彼らのアルバムは最初にベスト盤を買ったのだが、そこにこの“59番街橋の歌”も入っていた。収録されていたのはライヴバージョンのはずだ。

しかし待てよ。“59番街”というのは変だぞ。橋の名は59丁目のはず。そもそもニューヨーク(マンハッタン)は基本的に碁盤目に区切られていて、縦=南北がavenue、横=東西がstreetと名づけられている。そしてavenueは「~番街」、streetは「~丁目」と訳すはずだ。さらにニューヨークは南北に細長いのでstreetは数が多いがavenueは数が少ない。JALのマップで確認すると数字の付くavenueは1から11までしかない。59番街というのは存在しないのだ。

“59番街橋の歌”の原題を調べてみたが、やはり59th street bridgeである。本来なら“59丁目橋の歌”としなければいけないはずだ。これで思い出したのがビリー・ジョエルの「ニューヨーク52番街」というアルバムだ(うーん、出てくるアーティストや曲で年が分かりますな)。これも原題は52th streetで「ニューヨーク52丁目」であるはずだ。

ニューヨーク52丁目か……これってもしや確信犯じゃないだろうか。アルバムタイトルとして52丁目というのは何となく軽い、重みがない。52番街だと決まる。しゃべってみても格好がつくのは52丁目より52番街の方じゃありません?

まあ真相は邦題を付けた人にしか分からない。でも僕ら字幕屋はこれが許されない。こっちの方が決まるからといって、勝手に表記をいじれないのだ。面倒でもいちいち調べて確認しなければいけない。でも原語でQueensboro bridgeと言っていたら「59丁目橋」にするかも。「クイーンズボロ橋」だと文字数が倍ですからね。

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