仕事場で会おう
間もなく公開の「イコライザー2」はデンゼル・ワシントン初の続編作品だそうだ。元CIAの凄腕エージェントが、この世の不正を正す仕事請負人“イコライザー”として活躍する物語。予告では表の職業をタクシードライバーとしているが、正しくは配車サービスのドライバーである。劇中ではリフトという会社と契約しているが、これは実在の会社です。配車サービスとは何か、なぜ予告でタクシードライバーとしたかについては拙コラム第42回「ウーバー・ワールド」を参照していただきたい。本編内で主人公が「運転手の評価は星5つに」と言うが、ドライバーの評価の話も書いてあります。
さて、今回は少し想像をたくましくしてみたい。劇中でワシントン扮する主人公が「仕事場で会おう/See you at work」と言う(字幕は「また仕事場で」)。どういう状況で言うかは本編を見ていただくとして、これがワシントンの行ったスピーチに関係あると思うのだ。彼は2017年に「フェンス」で全米黒人地位向上協会(NAACP)のイメージ・アワードを授賞する。これは映画、テレビ、音楽、文学で活躍した黒人に与えられる賞だ。その授賞スピーチの締めくくりに「仕事場で会おう」が出てくる。このスピーチが実に感動的なのだ。拙訳で載せてみる。
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(前略)私は特に、自分の世代より後から現れた若い映画関係者、俳優、シンガー、脚本家、プロデューサーたちの活躍を誇りに思い、うれしく思っています。特にバリー・ジェンキンス。若い方はご存じでしょうが、この若者は「ムーンライト」制作の機会を得る前に10本、15本、もしかしたら20本くらい短編映画を作っています。だから決して諦めないこと。取り組まないことには物事は始まらないが、それより大事なことは、継続なくして物事は完成しないのです。それは簡単ではない。もし簡単ならケリー・ワシントンはここにいなかったでしょう。簡単ならタラジ・ヘンソンはいなかった――P・ヘンソンか(会場笑い)。簡単ならオクタヴィア・スペンサーはいなかった。彼女たちだけではない、簡単ならヴィオラ・デイヴィスはいなかったし、簡単ならマイケル・T・ウィリアムソンもスティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンもラッセル・ホーンズビーもいなかったし、もしも簡単ならデンゼル・ワシントンもここにいなかった。だから働き続け、努力し続け、決して諦めないこと。7回転んだら8回起きればいい。進歩するに当たって、様々な困難以上に脅威となるのは楽をすることです。進歩にとって何よりの脅威は困難ではなく楽をすること。だからもがき続け、成長し続け、学び続けてください。仕事場で会いましょう。
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NAACPでのスピーチということで、同胞である黒人を念頭に話しているのは明らかだが、その内容は人種を越えて響く。バリー・ジェンキンスを除いて、スピーチで名前が挙がったのは全員が黒人の俳優、特に授賞理由となった「フェンス」の出演者が多い。バリー・ジェンキンス/「ムーンライト」は、この年の映画賞で「フェンス」と競った相手である。同じく映画界を賑わわせた「ドリーム」の出演者の名前も見える。3作品とも主人公はすべて黒人だ。
そして、このスピーチが行われたのが2017年の2月。「イコライザー2」の撮影がいつ終了したかは不明だが、全米公開は2018年7月20日。時間的に脚本に組み込むことは不可能ではない。スピーチにスタッフが感動し、この文句を脚本に滑り込ませた――と想像たくましくしてみるのも面白い……って、これに似た文章を前にも書いたぞ!
(このスピーチは“see you at work”“denzel Washington”で検索すれば映像が見られる。英文字幕付きのものもあるので、ぜひワシントンの生の喋りを堪能していただきたい。訳文で伝えきれなかった彼のスピーチのうまさ、会場の熱気などが直に伝わると思う。)