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翻訳の現場から


2019.02.14

風間先生の翻訳コラム

コラム第50回:サイボーグは銃の夢を見るか

サイボーグは銃の夢を見るか

『アリータ:バトル・エンジェル』 2月22日(金)より全国にて公開
(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation


 ジェームズ・キャメロン印のSF大作「アリータ:バトル・エンジェル」は日本のコミック「銃夢(ガンム)」を映画化した作品だ。キャメロンが原作に惚れ込んで映画化したというだけあって、その映像は圧倒的。空には巨大な空中都市が文字どおり浮かんでいる。やはり「タイタニック」「アバター」の人だけあります。
 翻訳に当たって原作の人名や用語はそのまま流用したが、映画オリジナルの設定もある。そこで出てくる用語は新たに訳さなければならないのだが……

 物語の舞台は未来。ある大きな戦争から300年後という設定だ。その戦争で地球の空中都市はすべて落ち、ザレムという都市だけが残った。地上には戦争の遺物が残っているが、今は失われた高度な技術で作られ、誰も仕組みが分からない。この戦争が The Fall と名づけられている。
 fallは落ちること、落下という意味。そこから戦争での拠点や町の陥落、さらには文明や国の衰退、没落という意味もある。設定から考えると、戦争により今の文明や生活様式は昔より衰えたという含みが想像できる。そこで「大崩壊」「大没落」「大瓦解」「大崩落」といった案を考えた。これに空中都市の「落下」も係っているはず。そこで「落」の字を含む「大没落」を選んだが、今ひとつ決まらない。そこで苦肉の策として「戦争」を加えて「没落戦争 」とした。後ほど、クライアントサイドから「ザ・フォール」とルビを振ってほしいと言われたのでルビを加えている。

 地上の住民の一部には特殊なチップが埋め込まれ、空中都市の人間が住民の目や耳を通じて監視している。このチップの名前がtelepresence chipという。頭のteleというのは遠距離という意味の接頭辞。telephone, telegraphなど遠くに音声や文字を届ける言葉に使われる。これはすぐ「遠隔」という言葉を思いついた。問題はpresenceだ。いること、存在という意味。つまり遠くにいながら「その場にいる」かのように監視できるチップというわけ。「その場にいる」を雰囲気のある名詞にできないか頭の中で言葉を探していると、その場にいる→現場にいる→現場に着く、といった連想から「臨場要請」という言葉を思い出した。「事件現場に臨み初動捜査に当たる」という警察用語だ。臨場自体は一般的に会場や式場などへ行くことを意味する。「遠隔」と組み合わせて「遠隔臨場チップ」。ふむ、悪くない。せっかくだからこれに「テレプレゼンス」とルビを振って完成させた。

 物語の中で人が寄りつかない不毛の地が登場する。Badlands。ブルース・スプリングスティーンの曲にもあるし、テレンス・マリックのデビュー作「地獄の逃避行」の原題もBadlandsだ。アメリカのサウスダコタ州やネブラスカ州の荒れた土地のことをバッドランドとそのまま呼ぶのは有名だ。最初は「荒れ地」として「バッドランド」とルビを振った。しかしクライアントから「悪地」ではどうかと注文が来た。実は「荒れ地」とした時点では映像がなかったのだが、後で来た映像を見ると植物が生い茂っているではないか。本国に問い合わせると「没落戦争で核によって汚染され、今でこそ植物は茂っているが人の居住には適さない場所」という設定らしい。さらに調べたところ、上述のバッドランドは元々地形学用語で、日本語では「悪地」という言葉を当てている。そこで「悪地」と訂正し「バッドランド」のルビを振った。

 とまあ、こんな感じで僕は訳語を創っている。調べ物と違って正解がないだけに、いつも一抹の不安が残る。うまい言葉が出てくればいいが、仮訳を作って数日悩む時もあるし、本人的に納得がいかないまま提出したら評判がよかったなんて時もある。面白くも難しい作業だ。

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