ジョコーとは何者か?
3月22日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!!
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黒人刑事があのKKKに潜入する――アカデミー脚色賞に輝いた「ブラック・クランズマン」は何と実話に基づく。もちろん黒人の潜入は不可能なので主人公は電話対応、別に白人刑事を身代わりに潜入させるのだ。といっても監督はスパイク・リー、単なる実話の映画化では終わらない。彼が狙いを定めた真の相手が誰かは作品を見れば誰でも分かるだろう。しかもこれはシリアス一辺倒の映画ではない。コメディでもあるのだ。
作品が差別や憎悪を描く以上、卑語や呪詛の言葉がセリフに溢れている。普段ならいわゆる差別用語として訳出できないのだが、今回はクライアント側の判断でほぼそのまま訳すことができた。これは実に稀有な例である。もちろん差別用語を広めるのが目的ではない。差別する側の実態を描かなければ問題提起にならないからだと理解していただきたい。
今回は字幕を読んだだけではよく分からないであろうセリフについて書いてみたい。字数制限以前に、解説しないことには意味が取れないと思われるセリフだ。ということで、ある程度物語の内容に触れるのでご注意を。
潜入刑事を救おうと、主人公がKKK団員の家の窓に石を投げて逃げる。それを目撃した当主の白人妻がこう言う――「うちの緑の芝生に黒い影が!」。原文はThere's a black lawn jockey on our green lawn/「うちの緑の芝生に黒いローン・ジョッキーがいる」である。これは実にひどい、だがある意味うまいセリフだ。lawn jockey/ローン・ジョッキーとは、元は馬をつなぐ杭だったのが今は装飾用の人形となって、芝生に挿してある飾りのこと。ウィキペディアの「ローン・ジョッキー」の項が詳しいが、代表的な人形に“ジョコー”という黒人をマンガ風に描いたデザインの物がある。白人妻は主人公をこのジョコーに見立て、しかも対比するように“緑の”芝生と言ったわけだ。
団員が潜入刑事の家を訪ねようとして、手違いから主人公の家に行ってしまう。団員は家を間違えたとその場を去るが、後日潜入刑事を問い詰める。何とか言い繕うが「では俺が見た黒人は何者だ?」と訊かれ、潜入刑事は「あれは隠れキャラさ」とジョークで返し、その場を収める。原文はThat's the nigger I keep in the woodpile/「あれは俺が木材の中に隠しといたニガーさ」。これはnigger in the woodpile(or fence)というイディオムを踏まえたセリフだ。19世紀に南部から奴隷制が廃止されていた北部へ黒人が亡命する際、それを助ける結社があり、“地下鉄道”と呼ばれていた。これで黒人が亡命する際、実際に木材の中に隠れて移動することがあったという。そこから転じて「隠れた事実、思わぬ要因」という意味になる。ちなみにピュリッツァー賞を取った「地下鉄道」という本があるが、上述の組織が本当の鉄道だったら、という発想で書かれた奇想天外な小説だ。
KKKの会員証が届くから待っていろと言われ、潜入刑事が“待つのだぞ”と答えると仲間が“CMかよ”と混ぜ返す。大半の方は何のことだか分からないですよね。原文はAlcoa can’t wait。アルコアとはアメリカの国際的なアルミ・メーカー。この文句は1970年代に流されたCMソングで「アルミで築く未来が待ちきれない」という内容だ。アルコアは1970年代から80年代初頭まで多くのテレビ番組のスポンサーになっていて、このCMソングはアメリカではかなり有名らしい。そこで同じ年代の日本のボンカレーのCMの文句で遊んでみた――はい、これも分かりませんよね。指摘されたら「楽しみだ/調子いいや」といった、原文と離れるがとりあえず話が流れる訳に直そうと思っていたのだが、通ってしまった。こちらはどうかご笑納ください。
作品が差別や憎悪を描く以上、卑語や呪詛の言葉がセリフに溢れている。普段ならいわゆる差別用語として訳出できないのだが、今回はクライアント側の判断でほぼそのまま訳すことができた。これは実に稀有な例である。もちろん差別用語を広めるのが目的ではない。差別する側の実態を描かなければ問題提起にならないからだと理解していただきたい。
今回は字幕を読んだだけではよく分からないであろうセリフについて書いてみたい。字数制限以前に、解説しないことには意味が取れないと思われるセリフだ。ということで、ある程度物語の内容に触れるのでご注意を。
潜入刑事を救おうと、主人公がKKK団員の家の窓に石を投げて逃げる。それを目撃した当主の白人妻がこう言う――「うちの緑の芝生に黒い影が!」。原文はThere's a black lawn jockey on our green lawn/「うちの緑の芝生に黒いローン・ジョッキーがいる」である。これは実にひどい、だがある意味うまいセリフだ。lawn jockey/ローン・ジョッキーとは、元は馬をつなぐ杭だったのが今は装飾用の人形となって、芝生に挿してある飾りのこと。ウィキペディアの「ローン・ジョッキー」の項が詳しいが、代表的な人形に“ジョコー”という黒人をマンガ風に描いたデザインの物がある。白人妻は主人公をこのジョコーに見立て、しかも対比するように“緑の”芝生と言ったわけだ。
団員が潜入刑事の家を訪ねようとして、手違いから主人公の家に行ってしまう。団員は家を間違えたとその場を去るが、後日潜入刑事を問い詰める。何とか言い繕うが「では俺が見た黒人は何者だ?」と訊かれ、潜入刑事は「あれは隠れキャラさ」とジョークで返し、その場を収める。原文はThat's the nigger I keep in the woodpile/「あれは俺が木材の中に隠しといたニガーさ」。これはnigger in the woodpile(or fence)というイディオムを踏まえたセリフだ。19世紀に南部から奴隷制が廃止されていた北部へ黒人が亡命する際、それを助ける結社があり、“地下鉄道”と呼ばれていた。これで黒人が亡命する際、実際に木材の中に隠れて移動することがあったという。そこから転じて「隠れた事実、思わぬ要因」という意味になる。ちなみにピュリッツァー賞を取った「地下鉄道」という本があるが、上述の組織が本当の鉄道だったら、という発想で書かれた奇想天外な小説だ。
KKKの会員証が届くから待っていろと言われ、潜入刑事が“待つのだぞ”と答えると仲間が“CMかよ”と混ぜ返す。大半の方は何のことだか分からないですよね。原文はAlcoa can’t wait。アルコアとはアメリカの国際的なアルミ・メーカー。この文句は1970年代に流されたCMソングで「アルミで築く未来が待ちきれない」という内容だ。アルコアは1970年代から80年代初頭まで多くのテレビ番組のスポンサーになっていて、このCMソングはアメリカではかなり有名らしい。そこで同じ年代の日本のボンカレーのCMの文句で遊んでみた――はい、これも分かりませんよね。指摘されたら「楽しみだ/調子いいや」といった、原文と離れるがとりあえず話が流れる訳に直そうと思っていたのだが、通ってしまった。こちらはどうかご笑納ください。