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翻訳の現場から


2021.01.12

風間先生の翻訳コラム

コラム第73回:ボナペティ!

ボナペティ!

 年末に録りためていた映画の1本「バニー・レークは行方不明」という作品を見た。保育園に預けたはずの娘が消えるというイギリス製サスペンスの傑作だ。劇中で保育園の女性コックがジャンケットという料理を作っている。鍋から何やら白っぽい液体を次々に少し深めの小皿へ注いでいるが、初めて聞く名前だ。スープだろうか?彼女は「残飯のような味でヘドロのような食感」だとけなす。しかし後で出てきた警部は、大好物だと言って、並んでいる一皿を失敬して食べ出す。この時点ではどうやら固まっているようだが、引きの画なのではっきりしない。しかも白黒映画だから白っぽい物としか分からない。これは気になる。本筋とは別に気になります!
 調べてみるとジャンケット/junketとはデザートの一種だと分かった。砂糖で甘くした牛乳に酵素を入れて固めた豆腐状の物で、大人用ならラム酒を混ぜたりする。凝乳という訳語をよく見るが、甘いカッテージチーズだと思えばいいだろう。古くはcurds and wheyと呼ばれ、マザーグースのLittle Miss Muffetに出てくる。「マフェットのおじょうさん」の題で知られる谷川俊太郎版では単に“おやつ”と訳されていた。英米の挿絵や、この詩を題材とする絵を見ると、どのマフェットちゃんも皿とスプーンを持っているのが確認できる。
 映画や海外ドラマというのは、大仰に言えば異文化の窓口だ。だが子供に文化や社会慣習は分かりにくい。自然と興味の対象は分かりやすい食べ物へと向かう。小学生の時は西部劇で見たコーヒーが飲みたくて仕方なかった。焚き火の周りで飲んでいるコーヒーが素敵にうまそうに見える。だが親にねだると、カフェインを含んでいるから子供に飲ませられないと言う。しばらくしてデカフェ――ネスカフェの赤ラベルというやつが登場し、ようやく飲むことができた。といってもミルクと砂糖をたっぷり入れてだったが。同時に憧れたのが、カウボーイが使っていた金属製のカップだ。後年の大学時代、部室でコーヒーを飲む時、いくつかのカップに混ざって金属製のカップを見つけた。早速手に取ってコーヒーを入れてもらい、カウボーイ気分で口にしたら唇を火傷しかけた。金属は熱伝導率がいいので陶製のカップより熱くなるのだ!
 NHKで放送していた「刑事コロンボ」を見ていたのは中学生だったろうか。コロンボがよく食べていたのがチリだ。豆を煮込んだ料理のようだが、何より面白いと思ったのは、そこにクラッカーを細かく割って入れ、一緒に食べる場面だった。塩味とはいえ、クラッカーは菓子という認識だったから、料理に入れるのかと驚いた覚えがある。これと同時期、多分数年後だと思うが、日本にファミレスが初めて登場するのだが、物珍しさで出かけると、メニューの中にチリコンカーニ(と書いてあったと思う)というのを見つけた。名前の前半の“チリ”は一緒だし、メニューの写真はテレビで見たものと似ている。何よりクラッカーが添えられているではないか。思いきって注文し、チリでなかったらどうしようとドキドキしたのを覚えている――チリも知らないのかと言わないこと。1970年代前半の話ですからね。今はchile con carneのことで、英語読みすれば「チリコンカーニー」となり、略してチリと呼ぶのだと分かるが、当時はね。
 ちなみに「刑事コロンボ」は劇中(吹替版)ではコロンボ警部となっているが、階級はlieutenantで、正しくは警部補だ。これは“警部補”では語呂がよくないので、あえて“警部”と訳したのだそう。警部補は警部の下だが、それでもかなり上の階級で、実際はデスクにいる管理職。現場に出ることは基本的にない。だから劇中でも他の刑事はコロンボに対して敬語だった……とコロンボの話をしても今の若い方は知らないらしい。「うちのカミさん」と言ってもピンと来ない人が多くなってきた。幸い現在、NHKのBSで再放送をしているので、コロンボに興味を持った方、そしてチリに興味を持った方は一度ご覧になっては。

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