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翻訳の現場から


2022.10.22

風間先生の翻訳コラム

コラム第94回:お金の話(1)

お金の話(1)

 再放送で「タイムスクープハンター」というドラマ風歴史番組を見たのだが、江戸時代、和時計を欲しがる2組が、何とか買おうと競売のように値段をつり上げている。最初は六両二分だったものが七両→七両一分→七両二分→八両とどんどん上がっていく。そこでふと思った。七両から七両二分までの上げ幅は分かるのだが、そこから八両に一気に飛んでいる。競売のようなものだから駆け引きなのかもしれないが、少し上がりすぎではないだろうか。そう思って江戸時代の通貨を調べてみると、意外なことが分かった。当時の通貨体系は4進法なのだ。
 一両=四分、一分=四朱となる。だから七両二分の上は七両三分、その上は八両に繰り上がってしまう(もちろん朱で刻む手もあるけれど)。つまり一気に上がってはいないのだ。しかし、なぜ4進法という複雑のものにしたのだろう。これについては西池袋南町会の「コラム西池」というHPに面白いことが書いてあった。
 4進法というのは半分の半分という考え方だというのだ。価値の比較の基準は半分ということ。だから基本の貨幣があって、まずその半分を作り、さらにその半分を作るという発想は自然なことだ。例えばドルは10進法だが、硬貨は50セントと25セント。1セント硬貨もあるが、注目すべきは50セント硬貨と25セント硬貨に、それぞれHalf Dollar、Quarter Dollarと刻印されていること。つまり半分と四半分である。日本の場合も分は一分金と二分金、朱は二朱金と一朱金という硬貨があり、それぞれ半分と四半分である。これはドルの硬貨と同じ発想ではないか。
 複雑といえば、イギリスの旧ポンドはもっと複雑だ。現行ポンドは10進法で補助単位はペニー(複数だとペンス)。1ポンド=100ペンスである。しかし10進法に変わったのは1971年2月13日。それ以前は、まず補助単位にシリングというのがあり、1ポンド=20シリング、1シリング=12ペンスとなる。まとめると1ポンド=20シリング=240ペンスとなる。つまり10進法と20進法と12進法が混ざっているのだ。従って計算が非常に面倒になる(かつてはペニーの下にさらにファージングという単位があり、1ペニー=4ファージングだった。ファージング硬貨は1960年に公的通貨でなくなる)。
 なぜこんな複雑な組み合わせになったのか。これは等分割を容易にするためだったらしい。昔は小数や分数という考え方がなかった。その場合、10進法だと2と5でしか割れない。しかし20進法(シリング)なら2、4、5、10で割れる。12進法(ペンス)なら2、3、4、6で割れる。具体的な例を挙げよう。以下「しょうちゃんの繰り言」というHPの「二進法の世界」に載っていた例から引く。道端で3人が5ポンド札を拾ったとする。現行ポンドなら3人で平等に分けることはできない――警察に届けろなどと言わないこと!。しかし旧ポンドなら可能だ。5ポンド=100シリング=1200ペンスだから、1人当たり400ペンスと等分割できる。これを換算すれば1ポンド13シリング4ペンスとなる。旧ポンドは計算が面倒だが、分けるのには便利だったのだ。
 世界的に見れば、計算の主流は10進法だ。理由は人間の指が10本だから。子供は物を数える時に指を折りますね。事実、旧ポンドもポンド以上は10進法になっている。だが、ここに分割という概念が入った時、分けやすいように補助単位で20進法と12進法を組み合わせたのが旧ポンドのすごいところだ。特に12進法は分けやすい。他に身近な所では時計/時間がそうですね。
 ポンドについて調べてみたら面白いことが分かったので、この稿は次回に続きます。

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