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翻訳の現場から


2022.11.16

風間先生の翻訳コラム

コラム第95回:お金の話(2)

お金の話(2)

 前回は旧ポンドの複雑な単位について書いた。だが旧ポンドは補助貨幣(=硬貨)もややこしい。クラウン、フローリン、グロート、ギニーとやたら数があるのだ。1クラウン=5シリング、1フローリン=2シリング、1グロート=4ペンスに相当する。加えて半クラウン、半ペニーなど、各硬貨単位の半分の硬貨もあるのだ。1クラウンは5シリングだから半分にできないじゃないかというあなた、前回の話を思い出してください。まず2シリングずつに分けて残りが1シリング。1シリングは12ペンスだから、6ペンスずつでちょうど割り切れる。つまり半クラウンは2シリング6ペンスの価値となり、きちんと割り切れるのだ。さすが等分割に強い旧ポンドである。
 他にも3ペンス硬貨、6ペンス硬貨といった中途半端な数字の硬貨があるし、時代を遡れば種類はさらに増える。とてもここに書き切れない。いずれにせよ、これらの硬貨を混ぜて支払われることを想像したら……合計額を計算する気が失せそうである。
 さらに厄介なのがギニーだ。1ギニーは21シリングに相当する。1ポンド=20シリングだから、1ポンドより1シリング分価値が高いわけだ。なぜこんな半端な硬貨が存在するのか。これはギニーが金貨として登場したことが原因だ。ギニーという名前は、ギニアで産出された金を使って鋳造されたことに由来する(日本語だとギニーとギニアで別物のように思うが、英語だとどちらもGuinea。発音は“ギニー”となる。モルモットの英語名であるguinea pigを“ギニー・ピッグ”と呼ぶことを思い出していただきたい)。当初1ギニー金貨は1ポンド=20シリングの価値にする予定で1663年に発行された。だが鋳造当時の金銀の交換比率は金の方が価格が高かった。結果、ギニー金貨の価値は20シリングから最大30シリングまで高騰。最終的には1717年に21シリングの価値ということで固定された。
 このプラス1シリング分が理由でギニーは特別な使い方をされることが多い。1つは医者や弁護士などチップをもらえない職業の人間に対して、チップがわりの「心づけ」としてギニーで払うという慣習があったのだ。1ギニーは1ポンドとほぼ同じと見なされるが、正確にはギニーの方が1シリング分だけ余計に価値がある。だから例えば100ポンドの治療代を100ギニーで払えば、100シリング余計に払うことになり、この100シリング分が心づけとなるのだ。
 もう1つは賞品の値段だ。例えば値段が99ギニーと書かれていたら、実際は99ポンド99シリング、つまり103ポンド19シリングとなる。だが数字だけを見ると、まるで100ポンド以下のような印象を与える。買い手に安いと思わせる心理効果を狙って使うらしい。
 そしてギニーも他の硬貨の例に漏れず、半ギニー硬貨が存在する。21シリングだから半分にできない……もう分かりますね。半ギニーの価値は10シリング6ペンスだ。とここまで書いてきたが皆さん、もう少し大きい額の換算はどうですか?上記の99ポンド99シリングや、前回出てきた400ペンスを103ポンド19シリングや1ポンド13シリング4ペンスに換算できました?頭の体操がてら、ぜひ実際に計算してみてください!

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