静寂の夜 暴力の夜
『バイオレント・ナイト』
2月3日(金)公開
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「ブレット・トレイン」や「Mr.ノーバディ」でおなじみの87ノース・プロダクションから最新作「バイオレント・ナイト」が出た。クリスマスイブ、裕福な邸宅を強盗グループが襲撃。たまたま居合わせたサンタクロースが家族を救うために奮闘するのだ。
本作の悪党は互いをコードネームで呼び合う。そのすべてがクリスマス絡みなのだが、日本になじみがないものもあるので少し解説したい。
★ペパーミント:クリスマスには赤と白のペパーミントキャンディが出回る。特に後述のキャンディ・ケインが有名。
★シュガープラム:小さな球形の砂糖がけの菓子。プラムと付くが果物の意味ではなくプラムのように小さい球形のものという意味。具体的にはドライフルーツとナッツを細かくしてナツメグとカルダモンを加えて丸め、砂糖をまぶしたお菓子で、クリスマス・スイーツの定番。ちなみにバレエ「くるみ割り人形」に金平糖の精というのが出てくるが、オリジナルのフランス語ではドラジェの精、英語ではシュガープラムの精と訳される。シュガープラムの精/sugar plum fairyと言えばビートルズ・ファンなら“ア・デイ・イン・ザ・ライフ”のジョンのカウントに使われたので耳なじみのはず!
★クランプス:クリスマス・シーズンに聖ニコラウスと同行する、半分ヤギ、半分悪魔の姿をした伝説の生物。話が長くなるので簡単にまとめるが、聖ニコラウスとはサンタクロースの起源のひとつと言われている聖人で、元々はクリスマスと関係がなかった。ヨーロッパ中部のドイツやスイスでは12月5日(または6日)の聖ニコラウスの日に、聖ニコラウスがよい子にプレゼントを配って回る。だが聖ニコラウスはクランプスを連れている。これは聖/神が悪魔に勝利したことの象徴だ。そしてこのクランプスは悪い子に罰を与えるのだ。「お前はこの一年よい子だったか?」と迫るクランブス、泣き叫ぶ子供の姿はまさに日本のナマハゲだ。
★キャンディ・ケイン:赤と白の縞模様になったステッキ型のキャンディのこと。上述のようにペパーミント味が基本。クリスマスツリーの飾りとしてもおなじみだ。
★フロスティ:霜の降りる、とても寒いという意味の形容詞。ランダムハウスによればcoldとicyの中間の寒さとある。ここから霜のことを擬人化してジャック・フロスト/Jack Frostと呼ぶ。オー・ヘンリーの短編「警官と賛美歌」では冬の訪れを示す舞い落ちる枯れ葉を「ジャック・フロスト氏の名刺」と書いていた。
★ティンセル:ピカピカ光る飾り物。具体的にはツリーに飾るのでおなじみのモールのこと。画像検索すると出てくる。ちなみにハリウッドの別名はティンセルタウン。
★ジンジャーブレッド:パンではなく生姜クッキーのこと。ケーキを指す場合もある。特に人型で作ったジンジャーブレッドマンが季節のテーマ(ハロウィンやイースターなど)でいろいろな形に変わる。当然クリスマスならサンタクロースというわけ。
★スクルージ:ディケンズの「クリスマス・キャロル」の主人公で、クリスマス嫌いの守銭奴。「クリスマス・キャロル」はクリスマス映画として何度も映画化されている。小説の冒頭で甥っ子がメリークリスマスと言うと、スクルージがBah humbugと言う。「ふん、下らない」という意味だが、ここからクリスマスを下らないという意味に使うほか、人が楽しんでいるものを認めなかったり楽しめない時に言うセリフの定番となった。本編でも“スクルージ”がこのセリフを言うのでお楽しみに。
最後に、本編で出てきた日本人になじみのないクリスマスの習慣について。襲われる一家の娘が父親に「今年はお店のサンタに会ってない」と言う。字数がなくて「お店のサンタ」としたが、原文はSanta at the mallと言っている。これはモールに限らずデパートのオモチャ売り場などにいるサンタのことだ。もちろん本物ではなく、玩具店が雇ってサンタの格好をさせ、椅子に座らせている。やってきた子供がサンタのヒザに乗るとサンタ役は「プレゼントには何が欲しいかね?」と尋ねる。子供が答えると、横で聞いていた親がその欲しい物を玩具店で買うというわけだ。このサンタを本物だと思っている子供は多い。だから本編中の娘はサンタさんに欲しい物を伝えてないと焦っているのである。