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翻訳の現場から


2017.08.11

風間先生の翻訳コラム

コラム第32回:数字にご用心

数字にご用心

某作品の吹替を担当した時のこと。敵の狙撃手の動きを予想している場面で「俺なら、基地を出てから30秒後に狙撃する」というセリフを作った。すると、同じ箇所を字幕担当者は「30秒以内に狙撃する」と訳してきて、どちらが正しいのかとクライアントから問い合わせがあった。原文は30 seconds after leaving the base。僕は、基地を出て30秒後きっかりで撃つというのではなく、まずは30秒ぐらい待ったうえで、撃つ機会がありしだい狙撃する、というつもりで作った。しかし何か引っかかる。そこで知人のネイティブに確認を頼んだところ、思わぬ結果が帰ってきた。

基地の出入りシステムなど特別な時間体制の設定がないのなら、この30 secondsは具体的な秒数ではなく「機会が訪れたらすぐさま」の意味だというのだ。そう、僕が引っかかっていたのは30秒という具体的な秒数だったのだ。だから「30秒後きっかりではなく」と理屈が通る言い訳を考えて自分を納得させていた。だが、ここは30秒後も30秒以内もどちらも間違いなのだ。

映画では基地の出入りに特別な設定はない。となると30秒待つ理由がない。ということは、この30秒とは具体的な数字ではなく、30秒=短い時間=(チャンスが来た時点で)すぐに、という意味になるのだ。

言い訳をするようだが、これが大きな数字なら僕も間違わない。例えば、蛮勇を自慢している男が「目隠しで150マイルで車を運転したことがある」と言う。キロに換算すれば240キロ。まず、この240キロという換算は意味がない。原文はマイルだが、150とキリのいい数字を言っているだけ。あえて訳すなら200キロか250キロだろう。しかし、この数字も無意味だ。話の前後の流れで、150マイルに特別な意味はない。だから話者は単にものすごいスピードという意味で150という数字を選んだのだ。100マイルなら160キロ。これくらいなら無理すれば出せるから、少し盛って150マイルと言ったというところだろう。「目隠しで超高速で車を飛ばしたことがある」と言いたいだけなのだ。

しかし30秒というと現実感がある。しかも狙撃手というプロに関わる話だから、30秒待つことに信憑性があるように思えてくる。つい「30秒後に狙撃する」と訳してしまったのだ。でも、これだって150マイルと同じなのだ。前後の流れで30秒待つ理由が語られていない以上、「すぐに」の意味しかないと判断しなければいけないところだ。

 「たくさん」とか「すぐ」といった量や長さを言う時に、英語の場合は具体的な数字を言うことが多いように思う。その点をネイティブに訊くと、そういう傾向はあると言い、続けて私見だと断りながら「具体的な数字を出すことで現実感や信憑性が増し、量や長さなどを想像しやすくなり、結果として強調の度合いが増すように感じるのでは」とのことだった。彼らは数字を聞いて、それに意味がないと判断すると、即座に「すごく大勢」とか「すごく早い」ということだと了解するものなのだろう。

この数字についてもネイティブの方は「あり得ない数字であれば、即座に強調表現だと判断できる。この"あり得ない"というのは物理的または時間的に不可能だったり、単純に"いつ、どこで、誰が計った?"とつっこみを入れられるような明らかにソース不明な数字のこと」と解説してくれた。皆さん、数字にはご用心ですぞ。

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