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翻訳の現場から


2020.12.15

風間先生の翻訳コラム

コラム第72回:コラム大掃除

コラム大掃除

 年末といえば大掃除の季節。過去に書いたコラムのケアをして大掃除に代えることとする。よろしければ各回を参照のうえどうぞ。

コラム番外編:答え:「教皇」が正しいです
 先日、機会があったので千代田区三番町にある大使館を訪れてみた。門の看板(表札ではないし何と言うのだろう)は「駐日ローマ法王庁大使館」。「教皇庁」には変わっていない。ちなみにカトリック中央協議会のHPでは「駐日ローマ教皇庁大使館」と記されている。看板を交換するのはそれなりに労力と費用がかかるからそのままなのかも。いずれにせよ「駐日大使館」だから字幕にはまず出てこなさそうだし……

第25回:書類手続きをします
 ギャラを振り込む書類手続きに無効小切手/voided checkを求められるということを書いたが、その後これには前提となる事実があることを知った。日本で銀行口座を作ると通帳とATMカードを渡されるが、アメリカ(イギリスも同様らしい)に通帳は存在しないのだ。口座を開設するとATMカードと一緒に小切手(口座の種類によって数枚だったり小切手帳だったりするようだ)をもらう。だから口座情報をいちいち書類に記入するより小切手を無効にして渡した方が早いのだ。コラムではエビデンスのためと書いたが、それ以上に簡単だからという理由らしい。上ではギャラと書いたが、もちろん普通の給与振込手続きでも一般的に行われている。
 オンライン化が進んだとはいえ、現在でも英米ともに小切手を使うことは多いらしい。公共料金や家賃などの支払いの他、郵送できるため特に高額を支払う際など小切手の出番となるのだそうだ。

第63回:クラゲの群れに刺されたら
 この回では生物の集合名詞=「群れ」の特別な言い方を紹介した。その際に本来の群れを意味する言葉はいろいろで、生物によって使い分けるので難しいということを書いた。その後、別の調べ物をしている時に面白いページを見つけた。ウィキ英語版のページでList of animal names/生物名一覧という。
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_animal_names
最初に科学的な分類上の種類(例えば鳥類、イヌ科、ウシ科、ウマ科など)の一覧、次に具体的な種の一覧がアルファベット順に並んでいる。これがなかなか面白い。幼名、メス、オス、群れ、などそれぞれの言い方が並ぶのだが、例えばイヌ科なら幼名はパピーまたはカブなど、メスはビッチ、オスはドッグとなり、見事に全部違う。日本語だと子犬、牝犬、牡犬など単純に「犬」に付けるだけ。他にも「くまのプーさん」のピグレットというのはブタの幼名なのだとか、「トムとジェリー」のトムはずばり雄ネコのこと(tomとかtomcatという)なのだとか、思わぬ発見がある。

第64回:木のふりをして
 「消え失せろ」というイディオムとしてmake like a tree and leave/木のふりをして消えろ、というのを紹介したが、これをアレンジした表現に出会った。make like a division sign and split。division signとは割り算記号/÷のこと。
そしてsplitが「割る」という意味と「退散する」という2つの意味があるのだ――数学の「割る」は本来divideを使うがsplitは分割するという意味だから通じないことはない。訳すなら「割り算記号のふりをして割れ→退散しろ」ということになる。イディオムを踏まえたアレンジということ。逆に言えば元となったイディオムを知らないと理解できない、または理解が難しいということですね。

第69回:内なるデーモン
「自分の中にいて、自分のためにならないことをさせる何か」という意味のデーモン。ピーター・バラカンさんのラジオ番組で聴いたのだが、翌週に視聴者から「魔が差す」と訳すのはどうでしょうという投稿が来ていた。それに対してバラカンさんは、悪くはないのだが「魔が差す」というのはその時かぎり、1回かぎりという感じがある。デーモンというのはずっとその人の中に巣くっていて、常に人をそそのかす存在だという旨のことを言っていた。なるほど、永続性がポイントなわけだ。
 ちなみにデーモン/demon本来の意味は「霊」という意味。辞書では「悪霊」という説明が多いが、本来は良い霊も悪い霊も含むようだ。つまり元々は各地、各文化で見られた霊全般を指し、西洋ではそれがキリスト教と結びついて悪魔/devilへと変遷したという感じらしい。

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